日本の食文化の発展に大きく貢献するだけでなく、今やワールドワイドに親しまれている「しょうゆ」。和食の基本としておいしさを支えてきたしょうゆの品質向上を目的とした「全国醤油品評会」の結果が10月1日の「醤油の日」に発表された。その年に造られた全国各地から集まった数百本のしょうゆを審査・選考し、優れた銘柄を表彰する企画で、昭和48年に初開催された。今回出品された268本の中から一次審査、二次審査、最終審査を通過し、農林水産大臣賞を受賞した優れた5本をご紹介!
日本人の生活に深く根ざしながらあまりにも身近な存在であるため、その実力や価値を認識していない人も少なくないしょうゆ。甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の五原味に、美しい色と豊かな香りを持ち合わせる発酵調味料であり、全国には1000以上もの蔵が存在。種類は大きく分けると5つに分類され、地域特性や蔵独自の製法を生かした個性的なしょうゆ造りが行われている。
そんなしょうゆの魅力や文化を広めている日本醤油協会では、毎年10月1日に「醤油の日の集い」と題し、イベントを開催。中でも注目を集めているのが「全国醤油品評会」の結果発表である。厳正なる審査により「農林水産大臣賞」を受賞した5本について、しょうゆのエキスパートである高橋万太郎氏に話を聞いてみた。
全国400以上のしょうゆ蔵に足を運び、しょうゆの魅力を広げる「職人醤油」代表の高橋万太郎氏。今回、農林水産大臣賞を受賞した5本についてたずねると・・・・・・。
「まず共通して言えることは、非常にきれいな造りをしているということです。しょうゆは発酵調味料なので微生物などが大きく力を持ち過ぎてしまうと味や香りに影響が出ますが、農林水産大臣賞を受賞されるだけに造り手が大変努力と工夫をされている。細心の注意を払って管理をしているので、マイナスの要素が少ないと感じました。あまりに個性的過ぎるしょうゆは好き嫌いがはっきり分かれるものですが、この5本に関しては多くの方に愛される、いわばいいとこ取りの味わいです」
まず、濃口しょうゆ3本について
「福岡県醤油醸造協同組合(福岡県)の『ふくおか』は、味と香りのバランスが非常に良い濃口しょうゆです。九州地方は甘いしょうゆが好まれる地域で、とりわけ福岡県はしょうゆメーカーが日本一多い県です。協同組合で造るこちらのしょうゆがベースとなり、各しょうゆ蔵が甘みをつけたり特色を出したりするため、個性的すぎない調和の取れた澄んだ味わいが特徴です。
日本醤油工業株式会社(北海道)の『キッコーニホン 特級』は、後味にほのかな甘みを感じさせるまろやかな濃口しょうゆですね。こうした味わいは原材料によるもので、大豆、小麦、食塩、アルコールの中でも小麦に含まれるデンプンが糖に分解されることにより、小麦由来の甘さが引き出されます。心地よい塩味が、北海道のような寒い地域に好まれる味わいで、刺身や煮物など万能に使えます。
佐伯醤油有限会社(広島県)の『まるさ 特選 本醸造』は、独特な濃口しょうゆです。塩分を抑えた造りで、控えめな甘さを感じさせます。三代目である阿須賀謙治さんのご両親の時代からずっと同じレシピを守っている。料理店に愛されているしょうゆで、料理人の要望を聞きながら今の味を確立したそうです。刺身はもちろんですが煮物、特に魚の煮付けによく合います」
これまでの3本と比較し、これから紹介する2本は「個性的」と評する高橋さん。味わいの特徴や活用の仕方についても話を伺いました。
「有限会社今野醸造(宮城県)の『芳醇』は、これまでと同じ濃口ですが初めての味と感じる独特なしょうゆです。混合方式と言われるタイプで、99%プロ料理人向けとして販売されている商品。特にラーメン店や中華料理店が多く、熱を加えたり油と合わせたりしても、味や香りが引き立つような味わいです。チャーシューを煮る時などもいいですね。
菱太産業株式会社(愛知県)の『太田屋 白醤油 超特選』は、白しょうゆです。もろみの一番搾りと二番搾りをブレンドしているのが特徴で、主原料である小麦の優しい風味と上品な甘みがある。食材の風味や色彩を活かすだし巻き卵や煮物はもちろん、塩や柑橘を添えて食べるような刺身の「かけしょうゆとして使って欲しい」というのが造り手の思いです」
さらに上記で紹介した5本の他に、全国各地から10本が「農林水産大臣賞」に次いで名誉ある「農林水産省大臣官房長賞(※)」を受賞した。
※前回までの「食料産業局長賞」は、今回から「農林水産省大臣官房長賞」に変更
「しょうゆ蔵にはそれぞれ個性がある」と言う高橋さん。しかし一方で、消費者は決まったしょうゆをどの料理にも同じように使っており「もったいない」と残念そうに語る。
「昔に比べ、米にしても野菜にしても、魚や肉だって、素材の質が格段に良くなっています。それなのに、合わせるしょうゆにはこだわらない人が多いですよね。せっかく鮮度のいい魚が手に入るのであれば、美味しいしょうゆを使わないともったいない。それぞれ料理に適したしょうゆを選んでもらえると、格段に美味しさが増します。しょうゆはワインと同じで、塩やレモンをかけて食べるような素材には色が淡くて塩味が強い白しょうゆを。肉やソースをかけて食べるような食材には、熟成が長く色が濃くて旨味が強い濃口しょうゆと相性がいい。この組み合わせを頭に入れて、ぜひしょうゆの世界に触れてみてください」
10月1日の「醤油の日」を記念して、合計1,342人に当たる「ふるさとのしょうゆ」プレゼントを実施中。各都道府県(沖縄県は除く)が誇る選りすぐりのしょうゆをご家庭で楽しめます。
また、抽選に漏れても、ダブルチャンスとして、今年行われた品評会で農林水産大臣賞を受賞した5蔵のしょうゆミニボトル5本と利き味皿のセットを300名様にプレゼントする大盤振る舞いの企画です。10月31日応募締め切り。下記バナーからご応募ください。
しょうゆ情報センター
「しょうゆ情報センター」とは2001年10月1日に発足した、しょうゆに関するあらゆる情報の発信機関。また、子どもたちにしょうゆの素晴らしさを紹介する出前授業や工場見学、感想文コンクールなど、食育活動も幅広く展開している。
文:粂 真美子 撮影:上田佳代子