パラアスリートと料理人が語る、真の"おもてなし"

パラアスリートと料理人が語る、真の"おもてなし"

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「和食が大好き」という元・車いすテニスプレーヤーの二條実穂さんのために、和食の名店「分とく山」総料理長の野﨑洋光さんが用意したのは、豆乳仕立ての椀と卵焼き、そして炊きたてのご飯。おいしいものを挟んで、お二人がバリアフリーとおもてなしについて語り合った。

飲食店での臨機応変の気づかいとは?

二條
野﨑さん、今日はよろしくお願いいたします。私、和食が大好きなので、お目にかかれるのを、とても楽しみにしていました。
野﨑
ありがとうございます。今日は二條さんのために料理をご用意しましたので、召し上がっていただきながら話しましょう。まずはお椀から味わってみてください。
二條
では、いただきます……。とてもまろやかで深みのある味わいですね。おだしは何を使っているんですか?
野﨑
だしは使っていません。野菜の味に、豆乳を加えてコクを出しているんですよ。
二條
えっ、だしを使わなくてもこんなに奥行きのある味になるんですか?
野﨑
最近は和食というと「旨味」が強調されがちですが、実は日本料理の極意は「淡味(たんみ)」。軽やかで爽やかな滋味なんです。
二條
私の友人にベジタリアンがいて、一緒に食事に行く機会も多いのですが、いつもお店を探すのに苦労しています。これなら、その友人にも喜んでもらえそうです。
二條さん
野﨑
当店ではご予約いただいた際に「嫌いな食材や、アレルギーなどの理由で食べられない食材はありませんか?」とうかがいます。たとえばベジタリアンのお客様なら、鰹だしの代わりに豆乳やトマトジュースを活用するなど、臨機応変に対応しています。また外国のお客様には英語のメニューをご用意しています。
二條
臨機応変という言葉に優しさを感じます。外食の際、お店の方は車いすのまま食事ができるように椅子を外してくださるケースが多いのですが、私自身はお店の椅子に座って食事をしたいと思っています。カウンターに対して計算された椅子の高さや座り心地もお店の魅力の一部だと思うので。もちろん、車いすのまま食事を楽しむことを好む人もいるでしょうから、その人に合わせて対応していただけると、すごくうれしいですね。
二條さんと野﨑さん
お二人は「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」メンバーを務める。

もっと気軽に声をかけ合うことで心の垣根が低くなる

野﨑
私たち料理人の仕事は、お客様にいかに楽しんで食事をしていただくかに心を砕くこと。その意味では、食材の好みに合わせて調理を工夫することと、体の不自由な方に快適に過ごしていただくための工夫をすることは、まったく同列なんです。あからさまな気遣いではなく、さりげなくお手伝いできればと思います。
二條
それが「心のバリアフリー」ですよね。海外では、私が困っていると「どんなふうに手伝えばいい?」と気軽に聞いてくれます。日本では「間違っていたらどうしよう」と躊躇してしまう方が多いように思います。私たちもサポートしていただきたいときもあれば、一人で完結できるときがあったりと、ケースバイケースです。「どうしたの?」と気軽に声をかけていただけたらと思います。
野﨑
私自身もそうですが、日本人はシャイだから「いま自分が声をかけたら迷惑なんじゃないか」と躊躇してしまう。たとえば車いすの方が、助けが必要なときに手元のボタンを押すと、周囲の人にわかるように赤ランプがつくとか、何か意思表示の方法があれば、介助する人もされる人も心の負担が軽くなるのに、と思います。
二條
“ちょっと助けてボタン”(笑)。いいアイデアですね。お互いに不安を感じることなく、もっと気軽にコミュニケーションがとれる社会になればいいですね。
野﨑さん
野﨑
店でのサービスもそうですが、「相手に目線を合わせる」ことが大切です。私は二條さんとともに「パラバリ懇(*コラム参照)」のメンバーになったのを機に、パラスポーツを体験させてもらったのですが、車いすフェンシングは、座った姿勢で剣を水平に保持するだけでもひと苦労です。パラアスリートのすごさを感じました。
二條
東京2020大会に向けて、パラスポーツを体験できる機会も増えていますから、ぜひ多くの人に参加していただき、パラスポーツの魅力、パラスポーツの楽しさを感じてほしいですね。本日は、おいしい料理と楽しいお話、ありがとうございました。

コラム◆東京パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けて

小池百合子都知事

小池百合子都知事

東京都は、パラリンピックを盛り上げるとともに、大会の気運醸成に合わせてソフト・ハード両面のバリアフリーを推進していくため、昨年6月、「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会(パラバリ懇)」を設置しました。メンバーは谷垣禎一氏を名誉顧問に、学識経験者、パラアスリート、各界で活躍する方々47名。二條さん、野﨑さんもメンバーに名を連ねています。
1月15日に東京国際フォーラムで開催された第3回の懇談会で小池百合子都知事は「パラリンピックを通じて、バリアフリーを促進していく。誰にとっても優しく、訪問しやすい街、そういう東京にしていきたい。パラリンピックの成功なくして東京大会の成功はない。大会会場を満員にして、大いに沸きたつ、そんな東京大会に皆さんとともにしていきたい」と語りました。

集合写真

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野﨑洋光(のざき・ひろみつ)

「分とく山」総料理長。福島県出身。東京グランドホテル、八芳園を経て1980年に東京・西麻布のふぐ料理店「とく山」の料理長に就任。89年、日本料理店「分とく山(わけとくやま)」を開店。現在は本店、伊勢丹店、とく山の3店舗を統括している。

二條実穂(にじょう・みほ)

元・車いすテニスプレーヤー。株式会社シグマクシス所属。大工として働いていた23歳のときに建築現場の足場から落下し脊髄を損傷、車いす生活に。2004年から車いすテニスを始め、数多くの世界大会に出場するプロのプレーヤーとして活動。2016年リオデジャネイロ パラリンピック ダブルス4位入賞。2019年現役を引退。

文:梅澤 聡 撮影:相澤 正

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