季節のイカをフライパンでサッとソテー。バゲット、サラダ、そして「春の金麦」をプシュッと開ければ、春の食卓のできあがり。
季節が変わるごとに訪ねてみたいレストランがある。イタリアンの名店「アロマフレスカ」もそんな1店だ。どのプレートからも原田慎次シェフが季節の食材から見事に引き出す旬の香味がふわっと立ち上がる。
原田シェフは休日もキッチンに立つことが多い。ただし家のごはんづくりは店とは違って至ってカジュアルモードだ。
「1人のときはサッとつくりますが、仲間と一緒にごはんを食べるときはずっとおしゃべりしながら料理します。使う道具もフライパンひとつの場合も多いですよ」
気張らないお家ごはんでも疎かにしないのが食材選び。今の季節ならタケノコや山菜など、見るからに春らしい素材を主役に据える。
「スーパーに買い物に行ってもその時季の食材に目が行きますね。先週は菜の花の入荷が少なかったけど、今週は多いな、季節になったんだなと感じたりします」
家庭料理でも、食材選びとなるとシェフ目線に戻るようだ。
原田シェフがお家ごはんに合わせて飲むお酒は、身体に優しく味わいも軽快なものが多いという。香りや味が主張し過ぎるお酒は家のごはんにはトゥーマッチと感じるだからだ。
この日、原田シェフがつくるのは、ヤリイカのソテー。
「ヤリイカはまさに旬の食材。運よくこのヤリイカは子持ちですね。ふくよかな味わいを楽しめますよ。フライパンだけで調理できるから家庭料理向きです」
ヤリイカにアンチョビやニンニクなどを加えて炒めると一気に食欲をそそる香りが立ち込めた。
季節の料理には季節のお酒を合わせたい。そんなこだわりを持つ原田シェフをこの日訪ねてきたのが、サントリービールの金麦醸造家、齋藤和輝さん。
これからの季節は、春らしいお酒を楽しみたいもの。
今回リリースする「春の金麦」の開発担当者である齋藤さんは、「春の金麦」の特徴を「かろやかな麦のうまみと澄んだ後味のバランス」と表現する。
「澄んだ後味を大切にしつつ、麦のうまみはしっかり残す、そこにポイントを置きながらつくりました」と齋藤さん。
かろやかな味わいの「春の金麦」は、早春の料理を引き立ててくれそうだ。
「金麦」はどのシーズンでもおいしく飲んでもらうため、季節ごとに味わいをととのえているという。
「気温が変わればお客様の味の好みも変化します。冬は味わい深さ、夏は爽快な味が好まれます。それに合わせて『金麦』の味わいもととのえていきます」
齋藤さんが狙うのは、季節によって変化する嗜好のマトの「ど真ん中」。飲む人の「いつ飲んでも『金麦』はおいしいね」という声だ。
ヤリイカのソテーを取り分ける原田シェフに、齋藤さんから「料理で大切にしていることは」との質問が。
「素材の持ち味をどう表現するかですね。ヤリイカを含め、素材が持っている魅力は1つではありません。3つや4つの魅力がある。どの角度からスポットライトを当てるかが大事。味を足しながらも余計なものを省いていくという考え方で調理すると、自然と素材のよさが浮き出てきます」
原田シェフがこの足し算と引き算の料理プロセスで、とりわけ心に留めているのが3つの要素の組み合わせだという。
「素材も味付けも3つを基本に組み合わせていきます。2つだと足りないし、4つだと多すぎてバランスが取れません。3つは収まりがいいんです」
原田シェフの話を聞いていた齋藤さん、何かに思いいたった表情だ。
「『金麦』の設計思想とよく似ていますね。味わいの中の尖った部分を削りながら丸くしていくのですが、丸くし過ぎても特徴がなくなるので、また広げ、また削る、を繰り返すイメージがあります。そうやって仕上げる『金麦』の香りも、麦芽とホップと酵母の3つの香りの考え尽くした組み合わせで成り立つんです」
原田シェフの料理と齋藤さんの「春の金麦」は、雑味をそぎ落とし、素材そのもののよさを最大限引き出すという共通点がある。だから口にしたとき旨味を存分に感じ、後味がすっきりしているのだ。
「料理の場合、寒い季節はお客様も油脂分の多い、味のしっかりした料理を好まれます。春になり暖かくなってくると軽めの味を好みます。『金麦』でも季節によって味わいをととのえているなんて。お話を聞いていて興味深いですね」と原田さんもあらためて感心したようだ。
すると齋藤さん、「とはいえ、『金麦』の持つ味の軸は変えてはいないのです。お客様には味をととのえていると気付いてもらえなくてもいい。お客様がごく自然に、『金麦』はいつ飲んでもおいしいな、というのが理想ですね」と語る。
これには原田さんも「店の味もまさにそうです」と大きくうなずいた。二人の作り手はすっかり意気投合したようだ。
「春の金麦」を口にした原田シェフはにこやかに笑う。
「最初、口に含むと馥郁(ふくいく)さを感じ、後味にはスーッとしたキレがあります。これなら食事との相性もばっちりですし、飲み飽きない」
「『春の金麦』は料理の繊細な味わいを活かすところを大事にしています」と齋藤さん。
齋藤さんの醸造哲学に触発された原田シェフは「『春の金麦』に合わせてもう一品作りましょう」と再びキッチンに立った。追加メニューは菜の花の素焼きだ。
フライパンにオリーブオイルをひいて、6~8分焼くだけの、とてもシンプルな料理だが、菜の花のほろ苦さに、まぶしたパルミジャーノと黒コショウの香味が絶妙に合う逸品に仕上がった。ひと口食べた齋藤さんもおもわず「シンプルなのにとてもおいしいですね。『春の金麦』にぴったりです」と驚いたようだ。
原田シェフと齋藤さん、つくるものは違っても、味や香りのバランスに心を砕き、素材の持ち味を最大限引き出すなど、スタンスは驚くほど似ている。どうりでで2人がつくりあげた料理とお酒がよく合うわけである。
ヤリイカ | 1パイ |
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おろしニンニク | 小さじ1 |
アンチョビのフィレ | 1枚 |
黒オリーブ | 3つ分 |
ドライトマト | 1かけ(小さめ) |
タカノツメ | 少々 |
イタリアンパセリ | 少々 |
E.V.オリーブオイル | 大さじ3 |
フライパンにオリーブオイル大さじ2を入れ、ぶつ切りにしたヤリイカを中火で軽く炒める。
ヤリイカに少し色が付いたら引っくり返し、オリーブオイル大さじ1を加える。フライパンを手前に傾け、たまったオリーブオイルのところにニンニクとアンチョビを入れて混ぜ、香りが出たら、タカノツメ、刻んだ黒オリーブ、ドライトマトを加え、旨味をオイルにうつす。
ニンニクがきつね色になったら全体を混ぜ合わせ、イタリアンパセリを散らし、塩少々で味をととのえる。
菜の花 | 1/2把 |
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E.V.オリーブオイル | 大さじ2 |
パルミジャーノ | 適量 |
黒コショウ | 適量 |
フライパンにオリーブオイルを入れて温め、菜の花を入れる。じっくりとやや焦げ目がつくまで6~8分かけて焼く。
皿に盛り、おろしたパルミジャーノと黒コショウを好みで適量かける。
サントリーお客様センター
フリーダイヤル:0120-139-310
「アロマフレスカ」オーナーシェフ
1969年生まれ。88年「ヂーノ」に入店。98年、広尾に「アロマフレスカ」をオープン。2010年に銀座に移転し、同じフロアに「サーラ・アマービレ」もオープン。
取材・文:大下明文 撮影:牧田健太郎