小さな食材王国、八丈島がシェフを驚かせる "東京宝島プロジェクト"(後編)
小さな食材王国、八丈島がシェフを驚かせる 小さな食材王国、八丈島がシェフを驚かせる

小さな食材王国、八丈島がシェフを驚かせる "東京宝島プロジェクト"(後編)

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農業、漁業、林業、そして畜産と酪農まで島内に揃う食材の宝庫。それが八丈島だ。前編の三宅島に続いて、“東京宝島”に料理人が乗り込んだ。世界の星付きレストランで活躍してきたフレンチのイノベーターである。

山と海が織りなす八丈島には様々な食材が眠っている。
山と海が織りなす八丈島には様々な食材が眠っている。

八丈島へ食材探しにやってきたのは、南青山のネオビストロ「&éclé(アンドエクレ)」などを率いるオリヴィエ・ロドリゲスシェフとヘッドシェフの布谷武士さんだ。

ロドリゲスシェフは、フランス・トゥールーズ生まれ。18歳で料理の道へ進み、フランス、イタリアのミシュランの星付き店で活躍してきた。2000年に来日。2005年にオープンした「マンダリン オリエンタル東京」内の「シグネチャー」のメインシェフとなりミシュラン1つ星を獲得。2015年から現職に就いている。

数々のレストランで活躍してきたオリヴィエ・ロドリゲスシェフ。
数々のレストランで活躍してきたオリヴィエ・ロドリゲスシェフ。
ロドリゲスシェフを支える、アンドエクレの布谷武士ヘッドシェフ。
ロドリゲスシェフを支える、アンドエクレの布谷武士ヘッドシェフ。趣味は東京の島巡りだ。

ロドリゲスシェフを知る人は「日本人よりも日本食材を知っている」と驚く。それもそのはず、来日直後に日本食材の魅力に惹かれ、在来野菜、米、チーズ、鮮魚などの生産者を訪ねる食材探しの旅を続けている。

同行の布谷シェフは、長くロドリゲスシェフとタッグを組んでいる。趣味は東京の島巡りとあって、八丈島には7回以上訪れている。そんなふたりが真っ先に目指したのは八丈島のチーズだった。

好きです。すごい。面白い。シェフを驚かせる食材の数々

八丈島での酪農に魅力を感じて移住した魚谷孝之さん。放牧で育てるジャージー種のミルクを使って、チーズなどをつくっている。

ロドリゲスシェフが「絶対に見てみたい」と切望したのが、八丈島乳業のモッツァレラチーズづくりだ。八丈島乳業は2014年の設立以降、チーズをはじめとする乳製品を小規模で製造する注目の乳業会社。最高技術責任者の魚谷孝之さんは、八丈島の自然と酪農の環境に感動。2013年に八丈島に移住した。「島の味がする牛乳で、島の味がするチーズがつくりたかった」という。

同社のチーズづくりは、驚くほど手間をかけている。生産量は少ないがお客のリクエストにはできるだけ応えようとする姿勢がある。例えばモッツァレラチーズはプロ向けに用途に合わせて食感が異なるチーズを用意する。視察では出来たてのモッツァレラを試食。長く伸びるモッツァレラはフランスにはないタイプだと言い、ロドリゲスシェフは満足そうに頬張った。

カード(凝乳)を練るうちにツヤツヤと光沢を帯びたモッツァレラチーズに変身していく。
カード(凝乳)を練るうちにツヤツヤと光沢を帯びたモッツァレラチーズに変身していく。 カードは牛乳に酵素を入れて分離した凝固物でチーズの素になる。

次に向かったのは、くさやを製造販売する森商店。代表の森則子さんは、フランス人シェフがやってくると聞き、くさやを焼いて振る舞ってくれた。ロドリゲスシェフは「くさやはにおいが強いけれど食べると魚とは思えない旨味が広がる。好きです」と満面の笑みを浮かべた。

青ムロアジのくさや。
森則子さんがつくるのは、青ムロアジとトビウオのくさや。写真は青ムロアジ。120年以上続く漬け汁に浸してつくる。
焼いたくさやをパクパク食べるロドリゲスシェフ。
焼いたくさやをほぐしてれる森さん。それを待ちきれないようにパクパク食べるロドリゲスシェフ。
「森さんのくさやはにおいが弱いけど、味は濃いですね」とロドリゲスシェフ。
「森さんのくさやはにおいが弱いけど、味は濃いですね」とロドリゲスシェフ。「ありがとう!苦労して続けている甲斐があるわ!」と森さんも笑顔!

八丈島の名産として近年知られつつあるのが大ぶりのレモンだ。生産者の西浜聡さんを訪ねた。ハウスの中は、たわわに実ったレモンで埋め尽くされている。このレモンは、菊池レモンとも呼ばれ、グレープフルーツのような大きさにシェフたちはびっくり。試食すると皮に苦味がほとんどなく、まるでキンカンのように甘い。そして果肉は驚くほど瑞々しいので、二度びっくり。「すごい!皮が美味しくて、こんなにジューシーなレモンは、初めて!」とロドリゲスシェフは感嘆の声を上げる。

レモンをつくる西浜聡さん。
レモンをつくる西浜聡さん。「島は風が強いので、露地で育てると、傷がついたり、皮が厚くなったりする。手間だけど、ハウスで育てると軟らかく美味しくなります」。
レモンの花。
レモンの花。「お皿のアクセントに使いたい」とロドリゲスシェフは言う。

あしたば部会の部会長を務め、カリスマ生産者と呼ばれる伊勢﨑武二さんが土づくりからこだわる「プレミアム明日葉」もシェフを驚かせた一品だ。香りが爽やかで、苦味が少なくて甘味があるのが特徴。茎の繊維が細いので、歯触りがいい。ロドリゲスシェフは「この明日葉は面白い。ハーブとしても、野菜としても使える。ぜひ私のレシピに加えたい」と話す。

「手をかけて育てると、それだけおいしくなる」と話す伊勢﨑武二さん。
「手をかけて育てると、それだけおいしくなる」と話す伊勢﨑武二さん。

いよいよ料理イベント、島民30人以上が集まった!

食材探しのあとは、いよいよロドリゲスシェフと布谷シェフによる料理イベントだ。島の食材がフレンチシェフによってどのようなメニューになるのか、皆さん興味津々。

「魚谷さんのモッツァレラチーズ 春野菜のコンポジションwithグリーントマトクーリ」
「魚谷さんのモッツァレラチーズ 春野菜のコンポジションwithグリーントマトクーリ」。クーリは野菜や果物からつくる濃厚なソースのこと。
「八丈島産アオゼのロースト&海風シイタケと生ハムwith明日葉クーリ」。
「八丈島産アオゼのロースト&うみかぜ椎茸と生ハムwith明日葉クーリ」。香ばしく焼き上げられたアオゼの皮と椎茸の香りが食欲をそそる。

まずは前菜の「魚谷さんのモッツァレラチーズ 春野菜のコンポジションwithグリーントマトクーリ」からスタート。魚谷さんのモッツァレラチーズとロドリゲスシェフのスペシャリテ「クーリ」を組み合わせたシンプルながらも華やかなひと皿。明日葉の新芽をあしらい島の恵みを盛り込んだ。

次は海の幸。島で「アオゼ」と呼ぶ白身の地魚を使った「八丈島産アオゼのロースト&うみかぜ椎茸と生ハムwith明日葉クーリ」だ。鮮度の良いアオゼは皮に旨味があるので、それを活かすようにフライパンでローストする。ソースには明日葉のクーリをあしらい、旨味の強い椎茸を生産する大竜ファームの「うみかぜ椎茸」を、オリーブオイルとバターでローストして添える。八丈島の海の幸と山の幸が出会ったひと皿だ。


シェフの動きを島の人々が息をのんで見守る。今回の視察がきっかけとなって島の料理に変化が生まれるかもしれない。そしてロドリゲスシェフの料理にも。2019年4月上旬まで、アンドエクレでは、八丈島でロドリゲスシェフが感銘を受けた食材をいくつも盛り込んだコース料理を楽しめる。舌で八丈島を感じてみませんか。

「アンドエクレ」期間限定コース

概要
ロドリゲスシェフが視察した八丈島の食材をふんだんに取り入れたコース料理を提供。
開催日時
2019年3月14日(木)~4月上旬まで
場所
アンドエクレ
東京都港区南青山5-5-4 ルーチェ南青山2FGoogleMap
コース価格
ランチコース3900円、ディナーコース4900円(税・サービス料別)

また、東京にある11の島々の魅力を体感できるイベントを開催します。都心にいながら、島しょ地域の魅力を見て、聴いて、味わって、感じることができるプログラムです。ぜひ、この機会にみなさんにとっての「東京宝島」を見つけにご来場ください。

イベント情報

“東京宝島ミュージアム”~あなたの知らない東京が見つかる~

概要
東京の島の魅力を体感できるイベントです。島レモンや明日葉を使ったスイーツも販売!詳しくはこちら
開催日時
2019年3月22日(金)~24日(日)
場所
東京ミッドタウン アトリウム
東京都港区赤坂9-7-1GoogleMap

お問い合わせ情報お問い合わせ情報

東京都では、東京の島々が持つ素晴らしい景観や特産品、文化などの地域資源を磨き上げ、高付加価値化を図ることで、東京の島しょ地域のブランド化を目指す『東京宝島事業』に取り組んでいます。

東京都総務局行政部振興企画課
東京の島しょ地域のブランド化を目指す『東京宝島』事業

この記事で紹介したお店

&éclé(アンドエクレ)

住所:東京都港区南青山5-5-4 ルーチェ南青山2F

TEL:03-6712-5018

営業時間:11:30~14:30(L.O.)、18:00~21:00(L.O.)、日曜、連休最終日~20:00(L.O.)

文:鈴木桂水 写真:山出高士

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