全国新酒鑑評会で、金賞受賞数6年連続日本一の新記録を達成。“ふくしま酒”の高い品質は、IWCやCMBなどの国際コンクールでも認められ、日本酒の最大の輸出先、アメリカ・ニューヨークの高級ワインショップでも好調な売れ行きだ。ニューヨーカーたちを夢中にさせている、ふくしま酒の仕掛け人、ジェシー・サラザールさんに話を聞いた。
マンハッタンの14丁目、賑やかなユニオン・スクエアに店を構える高級ワインショップ「ユニオン・スクエア・ワインズ・アンド・スピリッツ(以下 USQ)」。2018年8月、辣腕のワインディレクター、ジェシー・サラザールさんがふくしま酒専用コーナーを開設した。
サラザールさんは、日本酒のペアリングを積極的に提案するなど、利き酒ができるSAKEエキスパートとして、ニューヨーカーたちに一目置かれる存在だ。
2001年にUSQに日本酒専用の冷蔵ショーケースを導入したサラザールさん。2000年代初頭はニューヨークといえど、日本酒の知名度は低かったはずだが、そんな初期の取り扱いブランドの中に、すでに福島県の大七酒造や奥の松酒造の名前があったという。「大好きなふくしま酒を応援したい」と語るサラザールさんに、その思いをインタビューした。
私は、1999年からワインと日本酒の世界で働いています。大学時代、Pebble Beach Company(リゾートホテル)のキッチンでアルバイトをしていた時にワインの面白さに目覚め、その後ニューヨークに移ってからもその勉強を続けました。日本酒を多く出していたファイナンシャル・ディストリクト(ニューヨークの金融街)のレストランでの経験を買われて、2001年にUSQで働き始めたところ日本酒セクションの担当に。その当時、店では主にローカルの、あまり品質のよくない日本酒をメインに置いていたんですが、私は日本酒販売用の冷蔵庫を導入し、販売ブランドを充実させていきました。
東日本大震災で津波が与えた福島への被害についてはずっと気になっていて、長い試練の日々の中、たくさんの日本の友人のことが頭から離れませんでした。そんな時に福島のいくつかの蔵元がニューヨークにアプローチをしていることを知り、福島の復興のために私ができることをしたいと思ったんです。先日、(米同時多発テロ事件での崩壊後に再建された)ワン・ワールド・トレード・センターで、内堀雅雄 福島県知事が出席されたすばらしいイベント(※)がありました。9・11の悲劇を間近で経験し、その後初めてあの場所を再訪した私は、我々ニューヨーカーと福島の人々との間の連帯を感じてとても感動したのです。だからふくしま酒のプロモーションに迷いはありませんでした。
※2018年5月30日、ワン・ワールド・トレード・センターにおいて福島県は交流レセプションを開催。内堀福島県知事が東日本大震災からの復興状況を説明し、国際社会に対して改めて福島の魅力をアピールした。
4つか5つの銘柄については知っていましたし、そのうちいくつかは2000年代初頭にUSQで取り扱いを始めた最初のグループにすでにあったものです。奥の松酒造と大七酒造は当初から私のお気に入りの酒蔵で、今も日本の最高ブランドに入ると思っています。
昔から好きですが、今はもっと好きですね。あのような震災からの復興は大変だったはずなのに、酒蔵が品質に一切の妥協をせず、さらに上質な酒造りを続けていることにただただ感動します。私の好きなふくしま酒の特徴は、味わいの厚みと静かなエレガンスが共存するところでしょうか。たとえば奥の松酒造の「十八代伊兵衛」など……、もちろんすばらしい日本酒なんですが、なんというか、すでにそのカテゴリーを超えていて。もし無人島に持っていくとしたらこれだなと思うくらい、私にとって特別な数本に入ります。
いろいろな酒があるので、どんなお料理でも合わせられると思いますよ。冬の寒い時期なら私は燗酒にして……、そうですね、末廣酒造の「鬼羅」がいいな、それをトンカツとかリブアイ(ビーフ)のグリルなどの重めの料理に合わせます。吟醸酒や大吟醸酒と合わせるならもっと繊細なお料理、たとえばヒラメポン酢(刺身)やちらし丼なら間違いない。
伝統的なペアリング以外で私が好きなのは、大七酒造の「箕輪門」とオリーブオイルでゆっくり煮たハリバット(おひょう)の組み合わせですね。さらにじゃがいものコロッケをいくつか足してやれば、マジカルなペアリングになりますよ!
売れ行きはすばらしいですよ。ラベル解読の難しさや専門用語の多さは高いハードルですが、数々の試飲イベントは初めての日本酒をお客様に試してもらういい機会だと思っています。酒造りや日本酒についての細かい説明を受けながら、リラックスした雰囲気の中で試飲できる機会は、新しいファンをつくり、セールスを伸ばすためには最もいい方法だと感じています。
ここニューヨークは世界で最高のお客さまであふれているので、私たちは恵まれていると思います。年齢層や生活スタイル、バックグラウンドがさまざまな当店の常連客は、新しいものをどんどん受け入れるんです。彼らの多くは旅慣れていて、知らない場所や未知の味、そして新しい「魔法」を常に知りたいと思っている。おいしい日本酒は、ニューヨークの多くの人たちにとって魔法のようなものなんですよ。エレガントですばらしくおいしいこの飲みものが、
試飲イベント中は、「ワオ!」「アメージング!」という声をよく聞きますね。USQでは日本酒セクションを2001年から徐々に拡大してきたわけですが、ここアメリカで日本酒が成長する余地はまだまだあると思います。このふくしま酒プロモーションの成功からも、アメリカでの“Nihonshu”の未来は明るいと感じています。
福島県では、1990年代から「酒造りは人造り」を掲げ、「福島県清酒アカデミー」で有能な杜氏を育ててきた。さらに「高品質清酒研究会」では、蔵元同士の技術交流が活発に行われている。震災以降も変わらず、たゆまぬ努力を続けた結果は、全国新酒鑑評会での金賞受賞数が6年連続日本一の新記録として結実。さらに世界的なワイン品評会の最高賞受賞によって、その名は世界にも聞こえている。
※英語字幕版・日本語字幕版の合計再生回数
ふくしまの酒は、日本で最も伝統と歴史のある全国新酒鑑評会で史上初となる「金賞受賞数6年連続日本一」を達成するなど、国内外で高く評価されています!
福島県観光交流局県産品振興戦略課 TEL:024−521−7296
文:佐々木ひろこ 写真:Nicholas Lattimore