おいしい本
『神林先生の浅草案内(未完)』トークイベントを開催しました

『神林先生の浅草案内(未完)』トークイベントを開催しました

~「観光客の知らない浅草」を女将とバーテンダーが語る~

『神林先生の浅草案内(未完)』の発刊を記念して、11月23日(火)にトークイベントを開催しました。著者・神林桂一さんの人となりを、そして本書の中の浅草を知るひと時となりました。

語り手は、女将とバーテンダー。

『神林先生の浅草案内(未完)』発刊記念のトークイベントが行われたのは、銀座線田原町駅から徒歩2分、大通りから小路に入ったところにある小さな独立系セレクトブックストア「Readin' Writin' BOOKSTORE」。
店主の落合博さんは元・新聞記者で、最近では『新聞記者、本屋になる』という本を出版。秘密基地のような書店の書棚には、落合さんの「気になる本」もしくは「読みたい本」が並んでいます。

本屋外観

ゲストは、本書176ページに登場する浅草観音裏にある「愛媛料理 笑ひめ」の女将・遠藤美香里さんと、168ページに掲載の浅草六区のオーセンティックバー「OGURA is Bar」のオーナーバーテンダー・小倉光清さんです。お客さんは、会場でのリアル参加に加え、オンライン視聴でも参加いただきました。会場のプロジェクターには、本書でも使った写真を投影しながら、トークを進めていきます。

イベントの様子

本来ならば、ここにいるはずの著者・神林先生不在のイベントで、遠藤美香里さんが語ったのは、先生の人となり、そして浅草の食べ・飲み歩きイベント「宵の酔い」における武勇伝だ。
「神林先生は、参加店全店をまわって堂々の優勝。そのうえ、2周目まで自主的にまわり、本当に深い浅草愛を感じました!」

女将の遠藤美香里さん
「愛媛料理 笑ひめ」女将の遠藤美香里さん。郷土愛があふれる小料理店では、愛媛ならではの肴をはじめ、伊予柑、でこぽん、清見、ブラッドオレンジなど特産の多種の柑橘を使ったサワーを提供。浅草観音裏地域の登録飲食店による飲み歩きイベント「酔いの宵」の実行委員を務める。

小倉光清さんが語ったのは、先生の好きなウイスキーのこと。
「アイラウイスキー、簡単に言うとウイスキーに正露丸を入れたような風味のアイラ島の癖のあるウイスキーがお好きでね。少量ずつ飲み比べができるチケットを買っては、誰かをお連れして、一緒に楽しまれていました。実は、先生がすでに買われたチケットで、まだ使ってない分があるんです。それをどうしようかと思ってましてねぇ」

オーナーバーテンダー、小倉光清さん
ウイスキーの品揃えが豊富なオーセンティックバー「OGURA is Bar」オーナーバーテンダー、小倉光清さん。浅草生まれ、吉原育ち。かつては、国内最大のバーテンダー組合であるNBA(日本バーテンダー協会)での浅草支部長を務め、現在は浅草の飲食店組合等の理事長、役員などを務める。会話の端々にオチャメなダジャレが飛び出すことも。

話は浅草の街のことにうつり、浅草観音裏のまわり方、六区というエリアのこと、そして、祖父が遊郭を営んでいたという小倉さんが生まれた地、吉原のことへ。コロナ禍を経た、現在の様子も語ってもらった。

装丁トリビア、カバーを外した表紙には「ミニコミ」原本が。

神林先生がつくっていた「ミニコミ」のランキング表は、ランキングといっても偏愛店ばかり。

その時のテーマや気分によって、往々にして順位は入れ替わります。

ここでひとつ、装丁トリビアを。カバーを外すと、表紙には本書のもとになった「ひとり飲みの店ランキング」と「浅草ランチ・ベスト100」の原本と手製の地図がプリントしてあります。あくまで、ある時点でのものなのであしからず。そして、白い帯を外すと、裏表紙には神林先生が愛用していた千社札が。(掲載店の一部には、この千社札が貼ってあるお店もあるので来店の際にはチェックを!)

表紙を見せる人

本書の撮影をした写真家・大沼ショージさんと、萬田康文さんにも、被写体としての神林先生のこと、そして神林先生の取材スタイルを語ってもらいました。

イベントの様子
写真家の大沼ショージさん。「連載を続けていくうちに、最初は照れていた先生もだんだん撮られなれていかれました。ときには、ご自分で画角まで考えたりもされてましたね」

また、お店の営業のため、当日会場にはいらっしゃれませんでしたが、本書の58ページに登場のレトロ喫茶「デンキヤホール」女将の杉平淑江さんからはお手紙を。

192ページに登場の酒場「大根や」の女将・安藤幸子さんからもコメントを頂きました。

イベントの様子

本書を読んだ方から、こんなコメントも頂きました。
「最初は、『先生に会ってみたかったなー』と思ってたけど、読みながら、『この本があるなら先生に会ったのとおんなじだな』って思った!」

うれしいですね。そうそう、きっと空の上でこんないい顔で、今日もおいしいお酒を飲んでいると思いますよ。

モニタに映る神林先生の写真

また、この本を購入した方が、スタンプラリーのように掲載店を訪ねてはお店の方にひとこと書いてもらうという動きが自然発生的に生まれているのだとか。
あっという間の約1時間20分。イベントはこれにて閉幕ですが、ぜひ掲載店に訪ねて、本書の世界を堪能してください。

神林先生の浅草案内(未完)
神林先生の浅草案内(未完)
都立浅草高等学校、国語教師が愛した店と人――。
教員生活43年。食べ歩き、飲み歩き歴46年。生徒からの呼び名は「かんちゃん」。神林桂一さんは、一元的な情報に頼らず、自転車でランチに繰り出しては新店開業の気配に敏感に反応し、酒場の店主や客との会話から生きたネタを仕入れ、実際に訪ねて、食べて、飲むことで、情報を蓄積していきました。

職場の若い先生や同僚たちに、浅草の深き食文化を知ってもらうべく、愛機のワープロ「文豪」のキーボードを叩き、わら半紙に刷り出した『ミニコミ』を発行。「ランキング」と謳ってはいるものの、載っているのは偏愛店ばかり。どの店も違って、どの店もいい。
この本は、37号にわたって発行した『ミニコミ』より「浅草ランチ・ベスト100」「ひとり飲みの店ランキング」を元に、神林先生が足繁く通った店を紹介しています。

これからますます意欲的に飲んで、食べて、さらには情報発信を、と意気込んでいた矢先、神林先生は突然、この世を去りました。『神林先生の浅草案内(未完)』は、更新されることのない途中経過の記録であり、店へのラブレターであり、浅草の食文化が垣間見られる教科書の一遍であり、観光客の知らない浅草を知る案内でもあります。
神林先生の愛した浅草に足を運んでもらえたら幸いです。

B5判(200頁)
ISBN:9784833451888
2021年11月15日発売 / 1,540円(税込)

撮影:萬田康文

神林桂一

神林 桂一

1954年5月26日生まれ。東京都出身。教員生活43年。食べ歩き、飲み歩き歴46年。
都立一橋高校時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・エスニック料理店、その他と守備範囲は広範囲に及ぶ。なかでも“お母さん酒場"には並々ならぬ情熱を持つ。
食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、ランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9200軒を含む1万5000軒の食の店や食の情報が整理されている。2020年8月24日逝去。