
こんな繊細なニョッキは初めてだ! ふわふわと柔らかく、口に入れると砂糖菓子のように儚くほどけて消え、後にじゃがいもの香りがふわりと広がる。芋好きを虜にするこのスペシャルなニョッキ2皿を、東京・世田谷のイタリアン「igora」の坂井務シェフに教えてもらいました。一皿目は「セージバターソースのニョッキ」です。

福岡県出身。都内のイタリア料理店で経験を積み30歳で渡伊。フリウリなど北イタリアを中心に腕を磨く。料理教室も不定期開催。

ふわふわ、しゅわ〜。「igora」のニョッキは夢の味だ。赤ちゃんのほっぺのように柔らかく、噛むとエアリーにとろけていく。舌に広がるのはじゃがいものピュアな甘味。こんな恍惚の境地があったなんて。
「じゃがいもからつくるニョッキはもちもち感が魅力ですが、実はそれが好きではなくて。ふんわり口溶けをよくしたいと、失敗もしながらブラッシュアップさせてきました」
そう振り返るのは坂井務シェフ。完成させたレシピは、取り扱い注意の札をつけたいほど繊細。皿に盛るまで一つとして気が抜けないという。
「生地づくりで大事なのは粘りを出さないこと。じゃがいもは粉質系の男爵やキタアカリなどがマストですね。メークイン系だとほろっとした食感にならないんです」
材料の混ぜ方にもコツが満載だ。極意はズバリ、「練らない」。潰したじゃがいもに薄力粉を入れたらそっと動かすようにしてなじませ、その後もこねない。ならば、どうやって生地にまとめるかというと、代わりに導入されたのは“重ね押し”の技。「生地を半分に切ったら重ねて上から優しく押す。4〜5回繰り返すと粉気がなくなりますよ」
成形もソフトタッチが基本。すべてを玉状にしたら後はゆでるだけなのだが、ここにも注意点が。
「大きい深鍋にたっぷり湯を沸かすこと。小さいとニョッキ同士がぶつかって崩れてしまいます。火加減は湯の表面が揺らぐ程度。グラグラ沸いたところに入れると崩れやすく、溶けてしまうこともあるんです」
ゆですぎも禁物で、プカプカと浮かんできたら素早くすくい取るべし。湯気の上がるぽにょぽにょのニョッキはそれだけで食欲をそそるが、おいしさを最大限に引き出すにはソースも重要だ。
坂井さんが教えてくれたのは2種類。一つ目は北イタリア伝統のセージバターソースだ。バターとパルミジャーノチーズのコクがじゃがいもの甘味を引き立て、爽やかなセージの香りもふんわり食感にぴったり。もう一つの椎茸ソースは、椎茸の濃厚な旨味と香りでニョッキが秋の味わいに。どちらもシンプルゆえに、軽やかさや口溶けが際立つのだ。
坂井さんのニョッキは決して気楽にはつくれないけれど、手塩にかけた先に待つのは未体験の新食感。じゃがいも好きもイタリアン好きも、みんなにつくってほしい!
| じゃがいも | 300g(キタアカリまたは男爵) |
|---|---|
| 卵 | 1個 |
| 塩 | 3g(細粒) |
| 薄力粉 | 40g |
| 打ち粉 | 適量(薄力粉) |
鍋にじゃがいもとじゃがいもがかぶる深さまで水を入れて強火にかける。沸いてきたら湯の表面が揺らぐ程度に火を弱め、そのまま40〜50分ゆでる。竹串などを刺してスーッと通ればOK。

ザルに上げて粗熱を取ったら皮をむいてしっかりマッシュする。冷めると潰すときに余分な力がかかって粘りが出るので、必ず熱いうちに作業すること。素早くなめらかに潰すためには写真のようなマッシャーがあるとベスト。すべてマッシュしたら人肌より少し温かい程度まで冷ます。

卵を溶きほぐし、塩とともに②に加える。じゃがいもに粘りが出ないようゴムベラなどで優しく混ぜる。

生地の全体にかかるように薄力粉をふり入れ、そっと動かすように粉を含ませる。この段階では粉気が残っていてもよい。


生地を半分に切って重ね、上から優しく手で押さえる。こうすると粘りを出さずに薄力粉を混ぜ込むことができる。これを4〜5回繰り返す。


丸くまとめて打ち粉用の薄力粉を軽くふり、4等分にする。





バットにクッキングシートを敷いて打ち粉をし、成形したニョッキを間隔をあけて並べる。ゆでるまではラップをして冷蔵庫へ。この状態で2〜3日は保存できる。

ニョッキのおいしさを最大限に引き出すソースの筆頭は、このシンプルなセージバターソース。ニョッキと芳潤なバターソースは相性抜群。口の中でほろりと崩れた後、かすかに残るじゃがいもらしいザラッとした食感にバターがからみ、舌を飽きさせない。
| ニョッキ | 15個(上記参照) |
|---|---|
| バター | 30g(食塩不使用) |
| パルミジャーノチーズ | 10g(すりおろす) |
| セージ | 4枚(葉のみ) |
フライパンにバターとセージを入れて中火にかける。バターが溶けたら表面がふつふつ揺れるくらいに火を弱め、フライパンを揺すりながらセージの香りを移す。1分ほど加熱したら水30mlを注ぎ、フライパンを揺すって乳化させ、火を止める。

大きい深鍋に湯を沸かして1%の塩(分量外)を加える。十分に沸騰したらニョッキをそっと入れる。①を火にかけてソースを温め、ニョッキが浮いてきたら穴あきお玉で優しくすくい取って①に入れ、火を止める。

フライパンを揺すってソースをからめる。パルミジャーノチーズを加え、スプーンなどでそっと転がしながら和えたらすぐに皿に盛る。ニョッキの食感は刻々と変わるので手早く作業しよう。

坂井さんが目指すのは食後も体が軽いイタリアン。日本各地から届く食材を生かした料理は、繊細で優しく独創的。アラカルトも多彩でナチュラルワインと気軽に楽しめる。



文:上島寿子 撮影:鈴木泰介