ミシュラン1つ星「薪焼 銀座おのでら」を率いる寺田惠一シェフ。今まで扱ってきた中で印象深かったと語るのは、大自然を有するニュージーランドの食材たち。清らかな大地と海で育った良質の食材は、体にも優しく味わい豊かだという。寒い冬に食べたくなるご馳走レシピを披露してもらった。
「薪焼 銀座おのでら」で腕を振るう寺田惠一シェフが、ミシュランの1つ星を初めて獲得したのは弱冠28歳のとき。それもミシュラン史上最速の開店から2ヶ月で成し遂げたというから驚きだ。
「シェ・イノ」の系列店や「カンテサンス」、フランスではジビエを中心としたバスク料理やモダンフレンチを学んだ経歴を持つ寺田シェフ。以前、料理長を務めていた、ニュージーランド産のビーフやラムを味わえることで評判の「WAKANUI」で出逢った食材たちが印象に残っていると語る。
「ニュージーランドには北島と南島があって気候も異なることから、食材がとても豊富で、食味がはっきりしています。たとえば、ラムは香りが穏やかで肉質がとても柔らかい。『WAKANUI』でも『ここでならラムが食べられる』とおっしゃるお客さまが本当に多かったです」
豊かな自然から生まれたニュージーランド食材を使って、寺田シェフが披露してくれたのは“ラムショルダーと野菜を使ったクリーム煮”。フランス料理の仔牛のブランケット(クリーム煮)をイメージしたものだそう。
「ラムは煮込むと独特の匂いが出やすく、トマトなどの酸味でまとめることが多いのですが、ニュージーランド産ラムなら臭みがないのでクリームで煮てもおいしく仕上がるんですよ」
ポイントは、下準備。塩、ハーブ、ワインでラムをマリネして一晩寝かす。
「こうすればクセが抑えられ、肉の旨味をしっかりと引き出すことができます」
脂とスジがほどよく入ったショルダーは、長く煮込まれてほろほろな食感に。
2品目の“ムール貝、牡蠣とキノコのマリネ”は、ラムを煮込む間にサッとつくれるお手軽なメニュー。ニュージーランド産の肉厚なムール貝と、濃厚な味わいの牡蠣をたっぷりと堪能できる。
「多めのオリーブオイルに、にんにくとエシャロットを軽く色づくまで炒めることがポイント。キノコと相まって力強い味になります」と寺田シェフ。プリッとしたムール貝とキノコの食感が心地良く、複雑に絡んだ風味が鼻に抜ける、箸休めにちょうど良い一品だ。
ニュージーランド産ラムショルダー | 700g |
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A | |
・ 白ワイン | 40g |
・ 塩 | 13g |
・ ローリエ | 3枚 |
・ ローズマリー | 2本 |
にんにく | 10g(2かけ) |
玉ねぎ | 140g(1/2個) |
セロリ | 70g(1本) |
にんじん | 100g(1/2本) |
マッシュルーム | 4個 |
かぶ | 2個 |
ブロッコリー | 1/2房 |
白ワイン | 100g |
強力粉 | 10g |
生クリーム | 100g |
ニュージーランド産オリーブオイル | 適量 |
ラムを7cm角に切り、ボウルでAの調味料と合わせて揉み込む。乾燥しないようにラップをして、冷蔵庫で一晩おく。
マリネしたラム肉の水気を取り、強力粉(分量外)を薄くまぶす。マリネに使ったハーブは煮込みにも使うので取っておく。中火で熱したフライパンにオリーブオイルをひいて、ラム肉にほんのりと焼き色をつける。焼き色が濃くならないうちに取り出す。
にんにく、玉ねぎ、セロリをみじん切りにする。
深めの鍋でオリーブオイルとにんにくを弱火で熱して、にんにくが色づいてきたら玉ねぎとセロリを加えて水分が出てくるまで炒める。強力粉を加えて、さらに炒め合わせる。
2のラムを3の鍋に入れ軽く混ぜ合わせたら、白ワインと水400mlを加えてひと煮立ちさせる。浮かんできたアクを取り除き、適当な大きさに切ったにんじん、かぶ、マッシュルーム、マリネに使ったハーブを加えたら、落とし蓋をして中火で1時間ほど煮込む。かぶは煮崩れするので15分ほど煮たら取り出しておく。
別の鍋で湯を沸かし、ブロッコリーを下ゆでしておく。
落とし蓋を外してクリームを加える。器に移して、下ゆでしたブロッコリーを飾りつけたらでき上がり。
ニュージーランド産牡蠣 | 8個 |
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ニュージーランド産ムール貝 | 8個 |
エリンギ | 1パック |
舞茸 | 1パック |
しめじ | 1パック |
にんにく | 5g |
エシャロット | 25g(玉ねぎで代用可) |
A | |
・ タイム | 3本 |
・ ローズマリー | 2本 |
・ ローリエ | 1枚 |
レモン | 1/4個 |
白ワイン | 50g |
ニュージーランド産オリーブオイル | 60ml |
牡蠣とムール貝は殻から剥いておく。エリンギ、舞茸、しめじは適当な大きさに割く。にんにくとエシャロットをみじん切りにする。
オリーブオイルを引いたフライパンを弱火で熱して、にんにくが色づいたらエシャロットを加える。
エシャロットの香りが出てきたら中火にして、牡蠣、ムール貝、エリンギ、舞茸、しめじ、Aのハーブを鍋に入れ、レモンを搾って皮ごと加える。白ワインを注いで3分ほど煮詰めたらでき上がり。
ニュージーランドの食の理念は「自然が豊かになれば、人も豊かになる」。羊も牛も国のアニマルウェルフェアの基準に則り、自然放牧によってストレスフリーに育てられている。畜産農家は、良質な牧草を育てるために土壌づくりから熱心に取り組み、栄養価の高い良質な牧草が生えるよう努力を絶やさない。
魚介類ももちろん同じ理念で漁獲されている。南極からの冷涼で澄んだ海流だけでなく、暖流も流れ込むニュージーランドは魚介の宝庫だ。ニュージーランド固有のムール貝“パーナ貝”は、エメラルドグリーンに縁取られた殻が目にも美しく、味も美味。身が白いオスとオレンジ色のメスがあり、新鮮なうちに食べれば味の違いも楽しめる。
そして世界最高峰との評判も高いニュージーランド産の牡蠣は、クリーミーかつジューシー。これら魚介の94%が持続可能な方法で管理されており、ニュージーランドの食に関する徹底した意識の高さがうかがえる。
ニュージーランドの意識の高い食品づくりは、肉や野菜・果実、乳製品、はちみつ、オリーブオイル、ワイン等すべてに及ぶ。ニュージーランド産の食材の魅力について、寺田シェフは「フレンチが記念日などの特別な日に食べたい料理だとすれば、ニュージーランド食材でつくる料理は、毎日食べたくなる味、かな。スーッとやさしく体に入っていくので食べ疲れない。そんなイメージですね」と言う。
「自然が豊かになれば、人も豊かになる」というニュージーランドの食の理念の通り、ニュージーランド食材があれば、食卓が豊かに広がりそうだ。
1985年、埼玉県生まれ。調理師学校を卒業後、「シェ・イノ」の系列店「ドゥ・ロアンヌ」でクラシックなフランス料理を学んだ後、渡仏。バスクやブルゴーニュで研鑽を積み、帰国後は「カンテサンス」を経て、28歳で白金「ティルプス」のシェフに就任。その後「傳」、ニュージーランド料理の「WAKANUI」を経て、2019年「薪焼 銀座おのでら」の料理長となる。
文:柳澤美帆 撮影:kuma*