美味しいアイスティーは、冷たく冷えていても紅茶の香りが豊かで、ほのかに渋く、ほのかに甘く、ひどい暑さにまいった体を癒してくれる。英国紅茶的な難しい儀式はすっ飛ばして、とにかく今すぐ!おいしいアイスティーを、気軽に淹れる方法をご紹介します。
冷たい紅茶は温かい紅茶よりもハードルが高い。「淹れる→冷やす」と2段階を経なければならないから。だからアイスティーは外で飲むものと思っていたけれど、必ずしも満足しているわけではない。おいしいアイスティー、どこで飲んだらいいんでしょう!?
そこで訪ねたのが、紅茶界のニューヒーロー、大西進さんのアトリエだ。「誰もがつくれる“おいしい”を、数値化してみましたよ」。大西さんの紅茶の淹れ方は、理論の裏付けがありながら、気軽で楽しいのが特徴。そして圧倒的においしい。
まずはストレートティー。紅茶のあるがままを味わう、直球勝負の飲み物だ。つくり方は二通り。沸騰した湯で茶葉を開かせ、氷で一気に冷やす、いわば「いつもの」方法。もう一つは熱湯を注いだ後、すぐに冷水でブレーキをかけて、やわらかい味をゆっくり楽しむ方法。おいしさの鍵を握るのはいずれも「計ること」。氷の量も成功へと導く。上質な茶葉があれば言うことなしだが、まずは最初の二つを頭に入れておいてほしい。
今回は沸騰した湯で淹れたあと、氷で一気に冷やす方法をご紹介する。
その1:美味しい茶葉
本当においしい紅茶を淹れたいなら、質のいい茶葉が欠かせないのは事実。葉の形を残したリーフティーならゆっくり抽出して、やわらかい味わいのアイスティーに。リーフティーを砕いたブロークンの茶葉なら、熱湯で抽出してキリッとしたアイスティーに。まずは手元にある茶葉を生かして淹れてみよう。
その2:氷を贅沢に
アイスティーがおいしくならない大きな理由は氷にある。まず圧倒的に量が足りない。しっかり冷やすには紅茶と同量の氷が必要だ。冷蔵庫の製氷皿の氷でもいいけれど、思い切って市販のロックアイスを使ってみよう。「グラスに大きな氷が入るだけで、豊かな気分になります」。数百円で叶う贅沢だ。
その3:道具を用意
常にストライクゾーンのおいしさで、アイスティーを淹れるには、正しい割合で茶葉、湯、氷を合わせること。そのためのキッチンスケールと、抽出時間を計るタイマーは不可欠だ。紅茶の抽出にはティーポットを使ってもいいが、耐熱のビーカーを使うと、湯量も目視で計れてとても便利(蓋は何でもいい)。
茶葉 | 10g |
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水 | 500ml |
氷 | 500g |
湯はしっかり沸騰させる。たなびく湯気が天井に向かい、湯の表面がボコボコと沸くのが“沸騰”です。
1L(1000ml)のアイスティーをつくるなら、茶葉の量は0(ゼロ)を二つ取って「10g」。きちんと計るといつでもおいしさのストライクゾーンに収めることができる。
1000ml(=1000g)のうち半分は紅茶を淹れる湯、半分は氷。500gの氷を計量する。1Lの容器の場合、1Lの線まで氷を入れるとおおよそ500gになる。
茶葉を入れた容器に、沸騰した湯を500ml(=500g )注ぐ。容器の線を頼りにしてもいいが、 正しい味を知るために、最初は計量するとよい。
すぐに蓋をする。蓋をするのは温度を高く保って茶葉の味を引き出すためで、香りを逃がさないためではない。抽出時間は最低2分、長くて3分まで。小皿を蓋代わりにしてもよい。
蓋を取り、柄の長いスプーンを差し入れ、容器の上部だけを優しく二回し。抽出した紅茶の上下の濃度を均一にするイメージ。
氷の入った容器に、茶漉しで漉しながら紅茶を注ぎ入れる。氷:紅茶= 1:1 の黄金比が、紅茶を一気に冷やしてくれる。
スプーンで数回かき混ぜると、全体がすっかり冷たくなって、氷が程よく残る。すぐにごくごく飲めるアイスティーの完成!
こんなにおいしいアイスティーが、簡単に淹れられることを知ってしまったら、今まで飲んでいた、市販のアイスティーにはなかなか後戻りできない。容器を水筒に替えて、携帯用のアイスティーをつくってみよう。
大西さんの相棒は600ml入る、スリムな水筒。600ml(=600g)のアイスティーをつくるなら、茶葉はゼロを二つ取って6g、湯と氷は300gずつ(水筒の口元まで目いっぱい氷を入れて計ると、おおよそ300gになる)。後は基本の淹れ方と同じ。
まずは手持ちの水筒の容量を調べるのが先決。明日からあなたのティーライフが劇的に変わるかもしれません。
24歳で喫茶店に転職して、最初の仕事はアイスティーを客席に運ぶこと。「西洋も東洋もない紅茶の世界を築きたい」と屋号を定め、茶葉販売の傍ら、著書や国内外での教室で紅茶の楽しさを伝えている。毎年テーマを一つ決め、“大西のスタイル”を突き詰めており、アイスティーについてはストローなし、細かい氷なしの現在のスタイルに到達した。
文:松野玲子 写真:牧田健太郎
※この記事の内容はdancyu2018年9月号に掲載したものです。