
温泉で心身を癒やした後に、旨しクラフトビールで喉を潤す。そんな王道の幸せにひたれるのが、日本有数の温泉地・別府の「BEPPU BREWERY」だ。ひとり旅でも束の間の滞在でも、爽やか&鮮やかに記憶に刻まれるひとときが待ち受ける。
「おんせん県」こと大分県は、温泉の湧出量&源泉の総数において全国1位を誇る。温泉宿から日帰り湯まで密に集まる別府は、その柱ともいうべき存在。大分市をはじめ県内の他の地域が出張先だとしても、ひと仕事終えた後に立ち寄ればリフレッシュできるのは確実だ。その癒やし効果を倍増させるなら、別府初のクラフトビールを生んだ、2022年誕生の「BEPPU BREWERY」を訪れていただきたい。
別府駅から約1分のロケーション。ガラス越しに奥の醸造所を望める空間は広々としていて、カウンター、テーブル席ともにゆったりと寛げるつくりだ。メニューに常時並ぶ10タイプのビールのコンセプトは、「風呂上がりに飲んでおいしいビール」。ホテルの温泉でひとっ風呂の後、カウンター席に陣取れば、目の前のタップからあふれる黄金の液体にそそられ、まずは迷うことなくピルスナー「湯あがりピルス」を……ああ、なんて清々しい! 爽快な味わいながら、ほんのり立つホップの存在感が輪郭を引き締め、後を引く。続いてのぺールエール「湯けむりヘイズ」は、フルーティさと苦味の絶妙なバランスにフォーリンラブ。地元産のかぼすがきいた「かぼすセゾン」は、酸味効果でより爽やかさが際立っていた。奥行きやコクの塩梅といった個性は異なれど、いずれものど越しはクリアで実に気持ち良く、旨いっ。まさしく、風呂上がりにうってつけのラインアップだ。
ほかIPA、ダークラガー、ヴァイツェンなど、メニューにはそれぞれわかりやすく特徴が記されている上、「苦いのが好み」「果実感がほしい」などの質問にyes/noで答え、自分好みの一杯に至れるチャートがあるのも愉快。サイズは300mlのミディアムと473mlのパイントが選べるが、150mlのグラスで3種を飲み比べるセットなら、ひとりでも多彩な世界を楽しめるのがうれしい。




ビールの友となる料理もまた、逸品揃い。メニューの最初を飾り、たっぷりパルメザンチーズの姿で心を鷲づかみにしたベルギースタイルのフライドポテト「フリッツ」は、しっかり揚がった表面はざくざく香ばしく、なかはほくほく。チーズで旨味の立体感が増し、それだけでも十分に旨いのだが、オプションで頼んだカボス入りのアイオリソースでエンジン全開。ともすればヘビーになりかねない濃密クリーミー&オイリーなコンビネーションは、かぼすマジックであら、軽快。ノンストップ街道邁進だ。
大分県は全国トップクラスの鶏肉の消費量も誇るだけあり、唐揚げをはじめ鶏料理も各種揃う。迷いつつも指名した名物のとり天の衣はさくさく、肉はしっとり。かぼすポン酢と辛子の融合が背中を押し、心はうっとり。揚げ物連打となったものの、カロリーという罪なる言葉をすっかり失念したほど後味は美しく、そして繊細な味わいのビールに実に合う。同じ温泉地である湯布院産の豚でつくるソーセージも、品の良い旨味がじゅわじゅわっとあふれるものだから、無抵抗でビールをおかわり。
ほかにもとり天バーガーや、150g、250g、453g(1パウンド)とボリュームを選択できる牛サガリのステーキなど、メニューを見ながら食欲は刺激されっぱなし。胃袋がもう一つあったらいいのにねえ。






というわけで飲んで食べての全速前進となり、なかでも気に入ったRed IPA「ベンガラレッド」は、ハーフサイズの後にパイントでじっくりと。果たして、飲み進むうちに風味がゆっくりとふくらみ、静かに笑みがこぼれる幸あり。辛さとにんにく風味をしっかりまとった枝豆で、さらに笑顔マシマシ……。
この店の上階を含め、別府駅周辺はビジネスホテルでも天然温泉付きが多く、宿泊での滞在なら湯上がりの一杯は容易だが、日帰りやホテルに大浴場がない場合でもどうぞご安心を。終日気軽に利用できる、共同浴場が点在するのも別府の魅力なのだ。BEPPU BREWERYの隣に位置する「駅前高等温泉」も、また然り。とりわけ店が昼間も営業している週末なら、太陽がまぶしいうちからまずは湯につかり、その後に冷えたビールをという至福の連鎖もすてきだ。
別府は外国人観光客が多く、とりわけ欧米の方々は旅先で地元のビールを楽しむとのことで、訪れた金曜の夜、土曜の昼ともに外国語がふつうに飛び交っていたのも旅情の彩りに。さらにはビールや料理とともにあらためて魅了されたのは、いずれの場面でも程よい巧みな爽やかさもたらしてくれた、かぼすのエレガントな仕事ぶりだった。スタッフの皆さまの型にはまらないやわらかな対応が、ビールのおいしさ同様にたいそう心地良かったのも忘れがたい。昔から多くの旅人をもてなしてきた別府ならではの、懐深いDNAに乾杯! なににしても温泉とクラフトビールの極楽的融合は、うちの近所にぜひ欲しい……。

文:山内史子 写真:松隈直樹