
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の平松玄太郎さんが、食いしん坊ゆえに気をつけたい健康について指南してくれるこの連載。今回のテーマは「薬物中毒」。違法薬物だけはない、身近な薬との上手な付き合い方について、教えていただきます。
みなさま、今回のテーマはグルメからは少し離れますが「薬物中毒」です。ここでは処方薬中毒、市販薬中毒、違法薬物中毒に分けてお話しさせていただきます。
まず大前提として「薬」とは何ぞやというところから始めましょう。
世の中に存在するありとあらゆる薬にはいくつもの“作用”が存在します。その中でも目の前の患者さんに有益なものは“主作用”とされ、有害なものは“副作用”と呼ばれます。
例えば尿の量を増やす利尿薬で説明すると、心臓が悪くて体内に水分がたまりやすく、足を中心にむくみが目立つ方には、主作用を期待して利尿薬の投与を始めますが、裏を返せば、脱水状態を生み出す薬にもなりえます。また中には水分と一緒にカリウムを排出するという副作用を持つ利尿薬があります。ある一定の基準値を下回ってしまうと、カリウム製剤を追加で飲んでもらう必要が出てしまい、患者さんによっては「また薬が増えたよ」という感想につながってしまいます。
痛み止めを出されると多くの場合、胃薬とセットで出されるのも、鎮痛薬には胃が荒れる副作用があるためですし、アレルギーの薬を飲むと口が乾くのも、有名な副作用のひとつです。
かの有名なゴッホは強心薬を飲んでいましたが、その薬には黄視症といって視野が黄色みがかってしまう副作用があります。この副作用のせいでゴッホの作品には黄色を基調としたものが多いとする説も存在しています。
しかし副作用をあえて利用する場合もあります。空咳が出てしまう副作用を持つ降圧薬を、のどの反射が弱くなった高齢者の方に出した場合は、痰を出しやすくするために使ったという点では主作用として利用したと言えますし、抗アレルギー薬は眠気の副作用もありますが、睡眠薬よりは作用が弱いので、軽めの眠剤として出されることもあります。
ワクチンも同じで、免疫をつけることが本来の目的ではありますが、狙いとは異なる反応が出た場合には“副反応”と呼ばれます。ワクチンは薬とは違って道義的に打つことが多く、摂取した時点において患者さんは何の病状にも困っていないので、打ったことによるメリットを実感できる瞬間が存在せず、どうしてもデメリットばかりに目がいってしまいます。しかし世の中にワクチンが存在していなければ、平均寿命は今よりかなり短かったであろうし、80億人もの人間が地球上で生きている現世はきっと存在しなかったでしょう。

では中毒とはどういう状態でしょうか。主作用が強すぎて人体に影響が出る場合や、副作用が前面に出たせいで具合が悪くなる場合のことで、事故的に血中濃度が高くなってしまうケースと、自己的に過量服用してしまうケースがあります。
それではここまでの話を元に、「処方薬」の中毒からご説明いたします。世の中には筋肉ムキムキで体のごつい方もいれば、逆にガリガリで華奢な体の方もいるのに、どうして薬の量は同じなのだろうという疑問を感じたことはありませんか。それは効果が出る血中濃度から不利益が出てしまう中毒濃度までの安全な領域に幅があるからです。
私が生業にしている集中治療の領域では、薬の効果を最大限に出すためにギリギリを狙い、患者さんごとに体重やそのときの腎臓の状態に合わせて薬の量をコロコロ変えたりします。しかしそこまでの管理が求められるのはごく限られた状況だけで、市販薬などでは「大人は1回3錠、子供は1回2錠」くらいのアバウトな管理でも大きな問題になることはありません。
しかし先述した安全な領域の幅が小さい薬もあります。代表的なものではてんかんの薬、血をサラサラにする薬、喘息の薬、強心薬などがあります。これらの薬を飲んでいる患者さんは定期的に採血をして血中濃度を測定し、血中濃度が低すぎて効果が出せていなかったり、血中濃度が高すぎて副作用が前面に出てしまったりするのを避けなければなりません。年単位で服用していたとしても、突然基準値を逸脱してしまうことはめずらしくありません。
ここまでお話しした中毒は主治医が調整すればいいだけの話ですが、今日問題になっているのは自分で過量服用してしまうケースです。救急の世界で仕事をしていると、過量服用をした患者さんを診るのはもはや日常茶飯事です。多くはかかりつけの医師から処方された薬をため込んで、あるときに一気に飲むパターンです。処方箋のコピー防止技術やマイナンバーカードが普及する前は同じ処方箋を使って複数の薬局から薬をもらうケースも散見されました。
時代と共に副作用が少ない薬剤が増えつつあります。しかし具体的な薬剤名は避けますが、高度の中毒が生命を脅かす薬は未だに存在します。処方薬については医療側である程度コントロールできますが、市販薬の場合はそうもいきません。
次回は、もしかしたら忙しい読者のみなさんも飲んでいるかもしれない、身近な市販薬が引き起こす中毒のお話しから進めたいと思います。
埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock