千葉県出身の一流シェフ5人による「ちばの食 満喫フェア 2026 早春」が2月15日(日)から3月14日(土)まで1カ月間開催されている。三方を海に囲まれ、平野部の多い地形と黒潮の影響を受けた温暖な気候を特色とする千葉県。恵まれた自然環境から生み出されるバラエティに富んだ県産食材を使った特別料理が各店で提供される。フェアに先立ち、シェフたちは産地を訪問。生産者の話に耳を傾け、目と舌で選んだ食材と地元愛からどんな料理が創作されたのか、現地視察の様子とともにレポートしよう。
冬晴れの1月半ば、千葉県の房総半島へと向かったのは都内で人気レストランを営むトップシェフたちだ。メンバーは日本料理「豪龍 久保」の久保豪シェフ、フランス料理「ラ・ボンヌ・ターブル」の中村和成シェフ、イタリア料理「メログラーノ」の後藤祐司シェフ、中国料理「オン・ザ・テーブル・チャイニーズ」の平賀大輔シェフ、スペイン料理「エマン」の小林悟シェフの5人。いずれも千葉県で生まれ育った地元愛の深い面々だ。
今回の目的は千葉県産の食材の現地視察。
「千葉の食材は一部で使っていますが、自分の知らない逸品があるはず。どんな食材に出合えるか、楽しみです」
という平賀シェフの言葉に全員が頷いた。
まず、降り立ったのは外房に位置するいすみ市の大原漁港。近年、千葉県では東京湾から外房にかけての広い海域でトラフグの漁獲量が増加。県の重要な水産資源の一つになっている。
「“大原産天然トラフグ”は一尾ずつ丁寧に釣り上げ、かみ合いを防ぐため船上で歯切りをした後、海水の生簀(いけす)に泳がせます。ストレスがないからお腹側が赤くならないんですよ」
トラフグ漁を行う「睦栄丸」の船長、滝口守弘さんはそう解説する。トラフグは欠かせない食材という久保シェフは早速、生簀の前で品定め。そっと手で触れて、「いいですね。2月になったら大きな白子も取れそうです」と目を細めた。
続いては外房を北上して長生郡一宮町へ。ビニールハウスの中では大きな“長生(ながいき)トマト”が実っていた。
「砂地の土壌と潮風はトマト栽培に最適。ハウス内は冬でも25℃前後なので、トマトの出荷ができるんです」というベテラン生産者、三枝栄一さんの話を聞きながらもぎたてのトマトを試食。「果肉がしっかりしていて、昔ながらのトマトの香りがします」と平賀シェフ。「冬のほうがゆっくり育つから糖度も高くなるんですよ」との説明に冬トマトの魅力を感じたようだ。
同じ長生郡の白子町にある“ながいき葉たまねぎ”の生産者、長島圭一さんと、“長生(ながいき)葉にんにく”の生産者、三橋利久さんの畑も見学した。葉たまねぎも葉にんにくも球根が大きくなる前に早採りして、青い葉を味わう早春の葉野菜だ。
葉たまねぎの畑でシェフたちは収穫を体験。採れたてをかじって「甘い!」と目を丸めた。
見学後は三橋さんの自宅にお邪魔して、葉たまねぎと葉にんにくをそれぞれボイルとホイル焼きで食べ比べた。テーブルには三橋さん特製の刻み葉にんにくの醤油漬けも登場。
「生産者さんがどうやって食べているのかを知りたいと思っていたのですが、この醤油漬けは薬味として使える。いいヒントをもらえました」と顔をほころばせたのは小林シェフ。
ほかのシェフも「葉たまねぎと葉にんにくは白い部分と青い部分の使い分けができそう。フリットやパスタなどアイデアが浮かびます」(後藤シェフ)、「葉たまねぎは前々から使っていますが、葉にんにくもおいしいですね。加熱の仕方でいろいろ使えそうです」(中村シェフ)と発見が多かったようだ。








産地見学した食材以外にも、千葉県には魅力的な美味が目白押しだ。そこで千葉県知事公舎に場所を移して試食会が催された。
畜産品には香取郡多古町を中心に生産される“元気豚”と、鴨川市で肥育されている“かずさ和牛”が並んだ。元気豚は自社製のソーセージも用意され、「ジューシーでおいしいですね」と後藤シェフは興味をもった様子。かずさ和牛はサシ重視の等級にとらわれず、赤身の旨味と和牛ならではの香りを追求する生産者の姿勢に共感が寄せられた。中村シェフは「試食は薄切り肉だったので、改めて厚切り肉を焼いてみたい」と料理のイメージを膨らませた。
水産品からは千葉ブランド水産物に認定されている“銚子つりきんめ”“富津漁協江戸前白ミル”“勝浦釣り寒マカジキ”の3品に加え、南房総の富浦湾で養殖されるサステナブルな“夢あじ”が登場。シェフたちの目が釘付けになったのは、会場に用意された丸々太った銚子つりきんめの美しさだ。試食した小林シェフは「さすがのおいしさですね。使ってみたいです」と前のめり。すでに使っているという中村シェフと後藤シェフも「やっぱり格が違う」と太鼓判を押した。
白ミル貝にも「コリコリして甘味も濃い」との称賛が集中。「中華の技法で炒めたらおいしそう」と平賀シェフには料理の構想が浮かんでいるよう。潜水具をつけて海底に潜り、一本一本、手で引き抜く伝統的な漁法が継承されているという話にも驚きの声が上がった。
マカジキでは「サンマを餌にするから脂ののりがよく、ピークの時季は全身が中トロになります」との説明にシェフたちは熱心に耳を傾けた。
ほかに、ブランド卵“レシピ”や、シャキシャキして柔らかい葉ねぎ“あじさいねぎ”もお目見え。あじさいねぎは江戸時代から受け継がれる野菜だ。
こうした顔ぶれの中でシェフ全員が「おいしい!」と目尻を下げたのはさつまいも。なかでも紅はるかを使ったオリジナルの焼き芋の一夜干しや、スイーツ感覚で楽しめる干し芋バーは「クオリティが高い」(中村シェフ)、「デザートに使いたい」(後藤シェフ)との声が上がった。千葉県はさつまいもの産出額で全国第3位。名産地の面目躍如といえるだろう。
試食会の締めくくりには熊谷俊人千葉県知事との意見交換会も実施され、農産、水産、畜産と多彩な食材がそろう千葉県のポテンシャルを再確認。千葉県出身のシェフたちにとって、発見と刺激、そして地元愛をより深める食材探訪になったようだ。

千葉の風土と生産者の熱意が生んだ食材は気鋭の料理人たちにどんなひらめきをもたらしたのか。その答えは2月15日~3月14日にそれぞれの店を舞台にした「ちばの食 満喫フェア2026 早春」でお披露目される。考案された料理は各店2〜3品。現地で出合った千葉県産の肉、魚介、野菜などのいずれかを使ったスペシャルメニューが、コースの一品もしくはアラカルトで登場する。
さらに、今回のフェアメニューを注文すると抽選で千葉の美食が当たるプレゼント企画も実施されるから見逃せない(詳細は最下部に記載)。
では、早速、5人のシェフが技とアイデアを注いだ千葉を味わうひと皿を紹介していこう。

目の前に置かれた瞬間から香りに惹きつけられるのが、「豪龍 久保」の久保シェフの手による“大原産天然トラフグの唐揚げ”だ。堪らず頬張れば、しっとりとした身から旨味があふれ出し、パンチの効いた味つけがさらなる食欲を呼び覚ます。
「トラフグの下味におろした葉にんにくを加え、揚げ油にはあじさいねぎでつくったねぎ油を使っています。こういう強い味付けはあまりしないのですが、たまにはいいかなって」と久保シェフ。
もちろん、イレギュラーなその旨さも食材を生かす技術があってこそ。トラフグは活けで送ってもらい、自ら締めて身欠きにしたそうだ。添えられた柚子味噌をつければ唐揚げに気品が加わり、あしらいの葉たまねぎを丁寧に炭火焼きするところも心憎い。
この唐揚げはコースのオプションとして用意され、もう一品、“手打ち十割蕎麦と元気豚のつけ汁”も供される。「豚肉は名前の通りに元気に育ったからか、火を通すと脂の甘味が際立つ。その脂をラードにし、葉にんにくと葉たまねぎを炒めて豚肉と一緒につけ汁に加えます」。しなやかな蕎麦と千葉県の銘柄豚の共演に期待は膨らむばかりだ。

千葉県八千代市出身。大学卒業後、調理師専門学校に入学。卒業後、歴史ある日本料理店などで働き、新宿御苑「大木戸矢部」では蕎麦打ちも身につける。表参道「しろう」で約6年間、料理長を務めた後、2013年5月に独立・開業。オープンからわずか7カ月でミシュラン二つ星を獲得したことで話題に。全国の産地に足を運び、生産者と連携。生まれ育った千葉県に店を開く構想も温めている。

「ラ・ボンヌ・ターブル」中村シェフがアラカルトの一品としてつくり出したのはかずさ和牛の稲藁焼き。しっとりとロゼ色に輝く見事な焼き上がりに胃袋が前のめりになる。
「試食をして赤身のおいしさにポテンシャルを感じ、自分で焼いてみたいと思って。生産者さんの熱意にも感銘を受けました」
稲藁で焼いたのは肉の脂で立ち上る煙をまとわせるため。口に運ぶとスモークの香りがふわりと広がり、力強い肉の旨味を持ち上げる。
ソースも出色だ。肉のジュ(だし)などを煮詰めたソースとともに添えたのは、ペーストにしたごぼうのソース。素朴な土の香りが肉と一体になり、大らかな千葉の大地を彷彿とさせる。柑橘のコフィンフィチュールやピリッと辛く爽やかなティムール、さらに葉にんにくのオイルをちりばめたひと皿は、最後の一口まで飽きさせない。
もう一品は “銚子つりきんめ、サフランリゾット、蕪”が披露される。中村シェフにとっては銚子つりきんめは10年以上愛用する熟知の仲。脂ののりと繊細な味わいを生かすべく、鉄板でカリカリのうろこ焼きにして供される。サフランがエレガントに香るリゾットやカブの甘味がどう共鳴するのか、食べてみてのお楽しみだ。

千葉県流山市出身。大学卒業後、調理師専門学校に入学し、フランス料理の道へ。渋谷「シェ松尾」、新江古田「レストラン・ラ・リオン」などで研さんを積む。ミシュラン三つ星の西麻布「レフェルヴェソンス」ではスーシェフとして活躍。2014年、同店の姉妹店となる「ラ・ボンヌ・ターブル」のオープンと同時にシェフに就任。2020年からYouTubeにレシピ紹介の動画投稿を始め、「KAZ PEANUTS【中村和成】」は2026年2月時点でチャンネル登録者数6.19万人。昨年、著書『フレンチシェフの引き算レシピ』(世界文化社)を上梓した。

「元々好きだったんですが、富津産を食べておいしさを再認識しました」
と「メログラーノ」の後藤シェフが言うのは白ミル貝。生でよし加熱してよしの懐の深さも魅力だという。
そこでアラカルトの一品として考案されたのがリゾット。といっても、米と一緒に煮込まず、エシャロットなどと強火でさっとソテーしてトッピングする。これにより一口ごと瑞々しい甘味と歯切れのいい食感を満喫できるというわけだ。
白ミル貝を受け止めるリゾットは南イタリア式のトマト仕立て。レモンの酸味とオレガノの爽やかな香りをまとわせて、白ミル貝の濃厚な旨味と調和させるテクニックが見事だ。ただし、驚きはもう一つ。フォークを入れると、中央からブッラータチーズが出現。ミルキーな風味がアクセントになり、味わいに心地よいリズムを生み出すから食べ始めたらノンストップだ。
もう一つの“大原産天然トラフグのフリット ながいき葉たまねぎの柑橘蒸し添え”は、後藤シェフにとってチャレンジというべきひと皿。
「フグは前々から使いたいと思っていた食材。地元の千葉県でたくさん獲れていると知って奮起しました」
トラフグは身欠きを仕入れ、薄い衣でクリスピーなフリットに。スパイス香るパプリカソースが添えられる。その横に並ぶのは、アクアパッツァさながらに蒸し焼きにした葉たまねぎ。「豪華なダブルキャストです」という言葉を聞いたらオーダーせずにいられない。

千葉県市川市出身。調理師専門学校卒業後、西麻布「クローチェ・エ・デリツィア」をはじめ名店で修業。2007年より3年間イタリアへ。シチリア州の2つ星「リストランテ・ドゥオーモ」など数軒で腕を磨く。帰国後、白金台のイタリアンのシェフに就任。2015年9月に独立・開業。「グラン・コンコルソ・ディ・クチーナ2012」など料理コンテストでの優勝歴ももつ。

いでたちはさながら現代アート。鳥の巣のように渦を巻くのは、オーブンでカリカリに火を入れた葉たまねぎだ。そこに白ミル貝とプチベールの炒め物が盛り込まれている。ぷりぷりの白ミル貝はかむほどに甘味をほとばしらせ、葉にんにくとザーサイでつくった翡翠醤(ひすいしょう)がその風味を引き立てる。「葉たまねぎと一緒に食べるとまた味が変わりますよ」という「オン・ザ・テーブル・チャイニーズ」平賀シェフの言葉に、ナイフを入れて頬張れば、香ばしさが白ミル貝のほのかな磯の香りと融合。上海の古典料理を参考にしたというものの、大胆な発想に脱帽だ。
コースで供されるこの品に加えて、アラカルトには“長生トマトとあじさいねぎの鶏卵炒め”もラインアップ。「シンプルな一品ですが、昔ながらの青っぽいトマトと仕上げに加えるあじさいねぎでひと味違うおいしさになっています」と平賀シェフ。さらにデザートにはねっとり甘い焼き芋から仕立てた“千葉県産さつまいもの冷製汁粉 杏仁豆腐”も並ぶので、どれも食べ逃しなく。

千葉県千葉市若葉区出身。19歳で料理の世界に飛び込み、ヌーベルシノワの巨匠、脇屋友詞氏のもとで23年間研さんを積む。横浜の「トゥーランドット游仙境」をはじめ、「トゥーランドット赤坂店」「脇屋一笑美茶楼」などを経て、34歳で福岡・博多「蓮双庭」の料理長に抜擢。約6年間腕を振るった後、渋谷「dots」の料理長を経て2024年1月に独立・開業。

「エマン」のメニューは全12品のコースのみ。その一品に組み込まれるのが、金目鯛と葉たまねぎを使ったエレガントなひと皿だ。「銚子つりきんめは脂ののりが抜群」と小林シェフが言う通り、皮目だけあぶった金目鯛はねっとりとした舌ざわりがなまめかしい。葉たまねぎは青い葉をゆでて金目鯛の下に敷き、ローストした白い部分は一枚ずつはがしてベールのごとくトッピング。仕上げには青い葉のねぎオイルを軽く落として、いわば葉たまねぎの3段活用、さすがのアイデアだ。
合わせたソースはモホピコン。ピーマン、ニンニク、アーモンドに唐辛子を少量加えたカナリア諸島に伝わるソースとか。やさしい酸味とふくよかな香りが千葉の味覚を底上げする。
もう一品、コースのタパスには“馬肉 長生葉にんにく ナスタチウム”も登場する。こちらでは鮎の魚醤に漬け込んだ葉にんにくが馬肉タルトのアクセントに活躍。「着想を得たのは生産者さんの醤油漬け。葉にんにくはパエリアに使うくらいでしたが、産地を訪ねて使い方のバリエーションが広がりました」。現地でのインスパイアが今後、どう表現されていくのかも楽しみにしたい。

千葉県成田市出身。学生時代にスペイン料理店でアルバイトをした経験から、料理の道を志す。都内レストランで修業後、25歳でスペインへ。ラ・マンチャの「エルボイオ」、バスクの「アスルメンディ」など、星付きの名店で腕を磨く。帰国後は奈良の「アコルドゥ」を経て、銀座「アロセリア・ラ・パンサ」に立ち上げから携わる。2021年12月に独立・開業。「ゴ・エ・ミヨ」「ミシュランガイド東京」に3年連続で掲載。
フェアについて ちばの食 満喫フェア事務局
dancyusouken@president.co.jp
千葉県産食材について
千葉県農林水産部 販売輸出戦略課ブランディング推進室 TEL:043‐223‐3085
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:上島寿子 撮影:牧田健太郎