江戸時代から賑わいを見せる東京の東側。ことに浅草周辺には新店が続々オープンしている。そこで、「食べる」をテーマに朝から巡る散歩コースを提案。伝統やなじみ深い「食」を下地にしながらも、「いま」を取り入れているスポットで、新しい美味を満喫!
「TOKYO古今グルメさんぽ」の始まりは、浅草寺から。日中は多くの参拝客が集う本堂へと続く仲見世商店街も、朝なら軽快に歩を進められる。観音様に参ったすがすがしい気分のまま、「梅と星」へ朝食に行こう。
「梅と星」は、2022年6月に開店。炊きたての羽釜ご飯と梅干しに豚汁。“素朴なご馳走”が並ぶ。
特筆すべきは、醤油が広まる以前からの欠かせない調味料、煎り酒が自家製であること。梅干し、昆布、鰹節、日本酒を煮詰めたもので、店では卵料理や生姜焼きなど現代の料理に生かしている。
店主の竹内順平さんは言う。
「古典的なのに、今となってはむしろ新しい。そこに魅力を感じています。煎り酒は、旨味が凝縮している調味料なので、単に塩気や酸味を加えるだけでなく、むしろ合わせる素材の味をより強く感じさせてくれます。そこで、自分たちで手がけるものはあえて塩を控えるようにしました。餃子やおひたしにかけたり、オリーブオイルと合わせてドレッシングにしたり。現代の食卓に合う味にしています」
竹内さんが食の仕事に携わるようになったのは、梅干しの魅力に取りつかれたことから。そしてこの先は、ロスなく保存ができて旨味が凝縮する「干し物」も手がけていきたいと考えている。根底に通じているテーマは、「日本の食における普遍的なものの再構築」である。
隅田川へと向かっていくと、景色がぱっと抜けた。視線の先には東京スカイツリー。川沿いを歩いたり、土産物店を回ったり、かっぱ橋道具街を巡るのもいい。
昼食は、2021年11月に開店した正統派の蕎麦が評判の「浅草 ひら山」へ。
店主の平山周さんは、ニューヨークの蕎麦屋で働いて手打ち蕎麦に開眼。「日本を出てみて、あらためて蕎麦の魅力に気づいた」と言う。
帰国後は、食べ歩いた蕎麦屋の中でもひと際その美味にひかれた東京・両国「江戸蕎麦 ほそ川」へ修業を志願。見目も美しい細打ちの蕎麦ときりりと締まったつゆの「江戸蕎麦」を習得した。
独立に際しては、伝統の王道を歩みながらも、器や店内は軽やかに。目指すところをこう語る。
「余計なことをしないシンプルな世界観は保ちながらも、ひと手間加えて、“蕎麦屋のつまみ”をきちんとした料理として提供したいですね。さっと蕎麦だけ食べて帰られる方にとっても、ゆっくり過ごしたい方にとっても、これまでにない空間をつくりたいと思っています」
蔵前界隈に進んでいくと、従来の建物をリノベーションしたカフェや珈琲専門店、雑貨店などが増えてきた。財布やバッグなど革製品や彫金などのものづくりの工房もあちらこちらにある。
その一角に、2016年11月開店の自家焙煎珈琲と自家製チョコレートの店「蕪木(かぶき)」がある。
店主の蕪木祐介さんは、この場所に自身の店を開いた理由をこう振り返る。
「日々、黙々と、珈琲やチョコレートづくりに向き合います。ものづくりが盛んなこの場所なら自分の店も風景のひとつになれるかと思って」。
また、昔ながらの店構えだったり、毎日やってくる常連客がいたりと、かしこまらずにひと休みできる喫茶店がきちんと残っているところにもひかれたと言う。
「私の店も、ふらっと立ち寄れる“ただの喫茶店”でありたいと考えています。日常のなかで小休止ができるような」
併設の喫茶室は、入店は1組2人までにしている。店内が限られた席数であることや、1杯ずつ丁寧に淹れる珈琲は一度に多くを抽出できずに時間を要するためである。
「蕪木」を出て、路地を曲がると風格ある建物が現れた。銭湯「三筋湯」だ。
15時に暖簾がかかると同時に、常連客がやってくる。
そのはす向かいには、2022年5月に開店した酒販店「NOMURA SHOTEN」がある。店で買ったお酒をその場で飲める角打ちスペースは、大きな窓が開放的で、風呂上がりの客を吸い込んでしまいそうだ。
国内外で活躍するバーテンダーであり店主の野村空人(そらん)さんが、酒販店を開いた理由はこう。
「コロナ禍はどうやってお酒を売っていくべきか、どうやってお酒のよさを知ってもらえるかを考えさせられた2年間でした。自分自身も家飲みが増えたこともあり、バーよりももっと気軽に新しいお酒と出会えて、しかも買って帰れるという“次世代の酒屋”をつくりたかったんです」
店内には、野村さんのフィルターを通してセレクトされたジンや焼酎、日本酒にクラフトビールにワインが並ぶ。カウンターでは、蒸留酒なら炭酸水やトニックウォーターで割って味わえ、気の利いたつまみも揃う。
「オンラインでもお酒を販売することはできますが、飲まないことにはわからないですよね。飲み方すらわからないかもしれません。家でもできる飲み方で実際に味見ができる角打ちは、オンラインとオフラインが交差する場所です。銭湯のはす向かいという、昔ながらの東京が残る風情もたまりません」
――すでにあるものを再解釈して新しい形にする。
今日の散歩は、そんなエネルギーに満ちているなぁ。余韻を味わいつつ、もう一杯飲んじゃおうか。
公益財団法人東京観光財団
電話番号:03‐5579‐2681
梅と星
【住所】東京都台東区浅草2‐2‐4
【電話番号】03‐4400‐8620
【営業時間】9:00~15:00(L.O.) 土日祝9:00~16:30(L.O.)
【定休日】月曜
【アクセス】地下鉄「浅草駅」より3分
浅草 ひら山
【住所】東京都台東区西浅草1‐3‐14
【電話番号】03‐5830‐6857
【営業時間】11:30~14:00(L.O.) 17:30~20:30(L.O.)
(店舗修繕のため10/9頃まで休業。10月中は、木~日曜12:00~15:00のみの営業。要予約)
【定休日】月曜、火曜
【アクセス】地下鉄「田原町駅」より2分
蕪木
【住所】東京都台東区三筋1‐12‐12
【電話番号】03‐5809‐3918
【営業時間】喫茶室は水~金曜11:00~20:00 土日祝9:00~20:00(月曜11:00〜18:00は珈琲豆、チョコレートの販売のみの営業)
【定休日】火曜(祝日は営業)
【アクセス】地下鉄「蔵前駅」「新御徒町駅」より7分
NOMURA SHOTEN
【住所】東京都台東区三筋2‐5‐7
【電話番号】03‐5846‐9755
【営業時間】15:00~22:00
【定休日】月曜(祝日は営業、翌火曜休み)
【アクセス】地下鉄「新御徒町駅」より5分
※お店のデータは通常営業時のものです。時節柄、酒類の提供や営業日時が変更されている場合があります。お出かけ前にご確認ください。
※価格はすべて税込みです。
文:沼由美子 写真:萬田康文