鮮烈なスパイス使いが特徴のインド料理をつくる「エリックサウス」が、西インド・ゴア州の味を再現した料理を提供。爽快で軽やかなゴア風チキンビンダルーと、しっかり辛くて酒が進むゴアソーセージグリルをぜひ!
ビンダルーはかつてポルトガルの植民地だった西インド・ゴア地方で生まれたカレー。ポークが定番として知られるが、今回はインドではポークよりもポピュラーだというチキンで特別に仕立てた。グレービーも現地に近づけ、ビネガーの酸味とにんにくの風味をビシッと効かせつつ、辛味のマイルドな唐辛子で香ばしさと薫りを強調。クローブやシナモンの甘い薫りの奥からじわりと押し寄せるシャープな辛味が気持ちいいカレーだ。
焼きたてで販売するソーセージは、ビンダルーと同じゴアのローカルフード。粗挽きの豚肉にシナモン、クローブ、ブラックッペッパーなどのスパイスをたっぷりに練り込み、唐辛子の辛味もしっかり効かせて現地の味を再現している。骨太な肉の旨味と混ざり合うピリリとスパイシーな味わいは、ビール、ワイン、日本酒、どぶろくなどなんでもござれ。
これらの料理を考案したのは「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔さん。日本ですっかりお馴染みとなった南インド料理の広がりを牽引してきた名店だ。この店でミールスやビリヤニを初めて食べたという人は多いだろう。
全店の指揮を執る稲田さんは、カレーの申し子というよりは食の申し子だ。フレンチ、イタリアン、中華、南米料理などあらゆるジャンルに精通し、最近は日本酒も探求しているという。もちろん、インド料理は研究者ばりに詳しく、何を質問しても明快な答えが返ってくる。しかも、その知識を形にするときは目線を下げて、誰にとっても分かりやすいスタイルに落とし込むこともできる。つまり、稲田さんの頭のなかのベクトルは全方位なのである。
象徴的なのが、神宮前の「エリックサウス マサラダイナー」のモダンインディアンコースだ。2ヶ月ごとに替わるコースでは、フレンチや日本料理などから着想を得たインディアンキュイジーヌが繰り出されることもしばしば。イノベーティブなインド料理は驚きの連続だ。一方で、マニアックともいえるインドのローカルフードやあえてオーセンティックな料理に光をあてることもあるという。
あるインタビューで稲田さんは自分のことを「フードサイコパス」と称していたが、まさに食への執着が「エリックサウス」という店の核になっているだろう。
今回の祭でベクトルが向けられたのは西インド・ゴア。そこには未知なる味覚体験が待っているはずだ。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:上島寿子 撮影:伊藤菜々子、海老原俊之