
3人の子供と、パリ・東京の二拠点生活を送る俳優の杏さん。「幼い頃から食いしん坊!」で、今もつくっては食べて、旅しては食べてを繰り返す日々。そんな杏さんが日頃暮らしているパリや東京、あるいは旅行や仕事で訪れた諸外国での“食の思い出”について語るエッセイ連載です。第二回は、杏さんが「最近気になってきた」と語るモンブラン、さつまいも、じゃがいもなど、秋の味覚が満載です!
30代を超えてから、なんだかモンブランが気になるようになってきた。これは友人知人何人かに話しても「わかるー!!」と言っていたので、年齢的な要素もあるような気がする。しっかりとした酸味や甘味に加えて、優しい味の需要が自分の中で高まってきたような。以前は真っ白なクリームに真っ赤なイチゴのショートケーキが不動の一位だったのが、濃厚且つ自然な甘さのモンブランに吸い寄せられるようになってきた。秋になってモンブランの存在が色濃くなってくると、コーヒーと一緒に食べられる時間を捻出したいものだと思うようになる。

ちなみに自由が丘の名店「モンブラン」のご子息達は、私の同級生さこプー含めた男三兄弟であり、野球仲間だった。子供の頃おうちに遊びに行った際、銀色のお盆にケーキがいくつも並んでいるのが運ばれてきて、私たち来客キッズは目を見開いて感動したものだ。そうだ、さこプーのところはケーキ屋だったんだ! すごい! 自由が丘の「モンブラン」は店名でもあり、文字通り看板ケーキだ。こちらは秋の小春日和のような明るい黄色。クリーミーで優しい味。パリで有名なのモンブランは「アンジェリーナ」のもの。パリらしいシックなグレージュの色合い。秋に例えるならパレロワイヤルの枯れ葉舞う中庭。これは底のほうにサクサクのメレンゲが隠されており、柔らかなクリームとの食感の違いを楽しめる。そういえば、一見ハンドクリームのようなチューブに入ったマロンクリームもお土産の人気商品だ。パンに塗ったりして食べるのだろう。フランスでは栗のヨーグルトもある。濃厚でもったりとした酸味のあるヨーグルトの底に、マロンペーストが層になっている。さすが酪農大国の味のバリエーションだが、これがなかなか美味しい!
こっくりとした栗に対する興味は、やがてさつまいもに。30代後半からパリに住み始めてからというもの、やけにさつまいもが気になるようになった。思い当たる理由はおそらく、ヨーロッパではさつまいもが手に入りづらいから。いや、厳密に言えばさつまいもにそっくりな見た目の芋はたくさんある。皮はそっくりの紫色だが、中身はオレンジ色だったり、白っぽかったり。しかし、どれも日本で食べるさつまいもの甘さは無い。そもそも、諸外国では「芋そのものが砂糖がいらないくらい甘い」という感覚が基本的に無さそうだ。手に入りづらいとなると、あの優しい甘さが恋しくなり、やけに食べたくなってくる。

そんな私にぴったりの本があった。山川理著『サツマイモの世界 世界のサツマイモ』。タイトルにあるように、さつまいもという植物についての知識、それからさつまいもを取り巻く現在の状況を満遍なく多面的に理解することができる、盛りだくさんの内容だった。スーパーフードと言っても過言ではないほどの栄養価は、身だけでなく、普段食べるイメージの無かった葉っぱや茎にまでいきわたっているらしい。そして「日本のさつまいもがとても甘い」ということがまだまだ世界に知られていなということは、そこにビジネスの道も広がっているかもしれない……!(そこに辿りつくまでのさつまいもの改良の歴史なども見応えがあった!)通年あるような干し芋や芋けんぴ、大学芋を食べる機会も増え、秋が近づいてくると限定商品も次々と目に入ってくる。さつまいものクッキー。グラノーラ。チョコレート。シンプルにふかしたのも良い。濡れた新聞紙やキッチンペーパーにくるんでからアルミホイルに包んで薪ストーブや焚火の中に入れて焼いてみたり、あるいはオーブンにいれてみたりしたが、今の段階での私の最適解は炊飯器に半分浸かるくらいの水を入れて炊飯モードで炊くというもの。電気圧力鍋を使ったりしても良かった。包む手間もなく、さつまいもの水分が抜けることもなく、しっとりと仕上がるのだ。あつあつでも、冷めても良い。
そもそも30代すぎたあたりから、というのが、もともとはどうだったのかというと、揚げた芋は小さいころから大好きだった。ポテトフライやポテトチップス。ゆでたり、ふかしたりの芋類は、すぐにおなかいっぱいになってしまって他のものが入りにくくなってしまうようなイメージだった。天ぷらのさつまいもやかぼちゃの魅力を再認識したのも割と最近だった気がする(もともと好きではあったが大好きになったという感じ)。代謝の悪くなってきたお年頃の昨今、おなかいっぱいになる? 最高じゃないか。消化にも良いし、それもこんなほっこりと優しい甘さを自然ともち、そこからさらに甘い道に進んでもいいし、天ぷらの時に添える塩や、ふかしたあとにのせるバターなど、塩のエッセンスを効かせる道に進んでもいい。カラオケとゲーセンをはしごしていた世代から、温泉に行きたくなる世代に移行したような。カラオケも好きだけど……。

そんな私が読んだのは山本紀夫著『ジャガイモのきた道』。こちらはじゃがいもと人類の長い長い道のりを教えてくれた。すでに日常に馴染んでいる根菜だから、野生のじゃがいもとか、原種なんて考えもしなかった……。南米で生まれた植物は、スペイン帝国が持ち帰るまではヨーロッパには無かったのだとか。パリにはパルマンティエ駅があり、そこには農学者であるアントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの像がある。彼はなかなかパリに定着しないじゃがいものために、あえて昼間だけ畑に警備をつけたという。あれだけ厳重に管理されているなら食べてみたい、と、人間の心理を逆手にとって、人々はこっそりと畑に忍び込んでじゃがいもを取っていった……じゃがいもの普及は飢餓も救うきっかけとなり、普及に一役買ったパルマンティエは像となってパリジャンたちを今も見守っている。本にはじゃがいもに依存しすぎて危うく傾いた国もあるなんて話もあった。じゃがいも好きには是非読んでいただきたい。

じゃがいもは今やヨーロッパ料理には欠かせない食材だ。ポテトフライにマッシュポテト、ポタージュ、挽き肉と合わせたフランスの家庭料理「アッシュ(ミンチの意)パルマンティエ」、スウェーデンの「ヤンソンの誘惑」……。なかでも私はやはり、ポテトフライが大好きだ。忘れられないのは、ベルギーで食べた思い出。ベルギーでは「フリット」と呼ばれており、至るところにフリット屋がある。ベルギービールと合わせて飲む人も多い。
ラッパ型の紙にざざっと入れた揚げたてフリットに、好みでマヨネーズ系ソースをつけていただく。ソースのフレーバーは何種類もあって、それを選ぶのも楽しい。私が家族旅行でベルギーに行ったのは11月、少し肌寒い季節だった。アツアツのポテトをハフハフ言いながら口に運ぶ。ガリッ! と音が響くような揚げ具合。かじった途端に口から白い煙がぼんっと出ていく。香ばしさと塩っ気に、手が止まらない。代表してフリットを持つ私のもとに、まるで餌を求める池の鯉のように、子供たちが群がる。一本ずつだよ! と言いながら、私も負けずに食べる! ベルギーは1泊2日の旅行だったけれど、同じフリット屋には二度行ったくらい、美味しかった。

ベルギーのフリット。他とは何が違うのだろう……。
私と子供たちは「フリットミュージアム」なる場所に足を運んだ。子供向けの自由研究のような施設かな? と想像していた。実際子供が楽しめるような仕掛けはたくさんあった。テレビゲーム仕立てでフリットができるまでを学べたり、じゃがいもの歴史、農業形態、じゃがいもがかかる病気や害虫………。壁一面に展示された世界中の「卓上塩胡椒入れ」は、動物や建物などあらゆる題材が取り入れられた主に陶器の色とりどりの瓶が2本セットで並び、どれもかわいかった。大人もしっかりと楽しめた。
ここフリットミュージアムで繰り返し伝えられたのが「“フレンチ”フライではない」ということ。ここベルギーこそがフリットの源流であり、フレンチフライと言い始めたのはアメリカの人たちで、そのおかげでフランスの揚げ物という名称が世界に広まってしまったのだ……本当にどちらが最初か、というのは諸説あるらしいし、そもそも距離としても遠くはないから同時発生的でもあったのだろう。未だ続く論争には、門外漢は黙ってどちらも美味しく味わうしかない。フランスではタルタルステーキと言う生肉のハンバーグの付け合わせで、ピリッと酸味のあるディジョンマスタードに付けて食べるのが好きだ。カナダではアップルビネガーをつけて食べたのがおいしかったなあ。カナダのマクドナルドにもケチャップとともにビネガーが個包装で置いてあって驚いた。

場所をベルギーに戻す。ガリッ! サクッ! のベルギーのフリット。「なんだこれは!?」という風味には秘密があった。それは……牛脂! 揚げ油に入れているらしい。だから、肉の香ばしさも加わり、また牛脂の作用でがりがりと硬めに仕上がるのだとか。確かに、フリット屋で目の前で揚がっていくのを観察したら、奥から運ばれてきた石鹸のような、発泡スチロールのような、担ぐくらいの大きさの真っ白の塊が、揚げ油にざぶんと入れられていた。あれは巨大な牛脂だったのだ。これこそが今までさんざん食べてきたフリットを、まったく違うようなものに感じさせてくれていた理由だった……! 調べたら、日本にもベルギー式フリットを出すお店がいくつかあるらしい。また、あのガリッとした香ばしいポテトを食べたいものだ……。
美味しいものは、食べすぎるとあまりよろしくない。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。欲望のままに生きすぎてはよくない……なんとよくできているのだ……と思うばかりだが、やっぱりポテトチップスはやめられない。ああっ疲れた! って四肢を投げ出したくなるくらい疲れた日の夜には、しゅわっとした飲み物とともにポテチをあけて、漫画を読むというのが最高のご褒美だ。家には買い置きのいろんな味のポテトチップスが置いてある。日本でも、ヨーロッパでも、世界中に存在する、ご当地ポテチ。パリでは甘じょっぱいバターの風味香るクレープ味のチップスなんてものもあった。ちょっと癖のあるシェーブルチーズ味とか、プロヴァンスのハーブ味とか。フィンランドではヨーグルトくらい酸味のあるチーズにフレーバーを足し、チップスをディップして食べるらしく、様々なフレーバーがふりかけのようにして売っていた。かさばらないのでお土産にもぴったりだ。オランダはマヨネーズ味、スペインはイベリコハム味。日本は高知のゆず、伊豆のわさび、名古屋の味噌カツ、静岡は三ヶ日みかんなんてのもあった。シンプルな塩味だとしても、それぞれの土地にまつわる塩の味だったり。コンビニに行けば名店とコラボしていたりするとつい買ってしまう。あっ! あと粉山椒や、袋の粉末だしの中身を出してポテチに振りかけるのもおすすめなので、ぜひ試していただきたい。最近買った新書『ポテトチップスと日本人』。ネットで話題になっていて即購入した。好きになったら、あらゆる手段で味わいつくしたくなる。
文・イラスト=杏