東京町焼肉最前線!
【西荻窪】"かめはめ波"の掛け声とともに肉が来る!? 旨さも楽しさも妥協なしの「炭火焼肉 丈虎苑」

【西荻窪】"かめはめ波"の掛け声とともに肉が来る!? 旨さも楽しさも妥協なしの「炭火焼肉 丈虎苑」

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、西荻窪の「炭火焼肉 丈虎苑(たけとらえん)」だ。店主の下原三四郎さんは、相撲の名門・埼玉栄高校、日本大学の相撲部を経て飲食の世界へ。焼肉一筋ではない経験をあえて生かし、固定観念にとらわれない料理を生み出している。煙をまとわせた燻しカルビに、絶妙な火入れを楽しむしゃぶしゃぶ上レバー、日本農業賞大賞受賞のジャンボマッシュルーム。マンガをあしらった皿や「かめはめ波」の掛け声で楽しませながら、味づくりはいたって真剣だ。店主の遊び心と料理への情熱が詰まった、型破りな町焼肉に迫ります。

ふざけているようで、どこまでも真剣

これまで「かーめーはーめー……波ぁっ!」なんて詠唱が提供時に聞こえてくる焼肉店があったろうか。
いや、ない。だが、西荻窪駅南口からすぐの「炭火焼肉 丈虎苑(たけとらえん)」には、店主の口から(少しかわいらしく)そんな詠唱が聞こえてくる。
声の主は店主の下原三四郎さん。長野県木曽福島町に生まれ、小中学校時代に相撲で頭角を表し、名門の埼玉栄高校、日本大学の相撲部で土俵に上がった。角界を目指したが、たび重なる肩のケガと、25歳以下という年齢制限で相撲への道は閉ざされた。
当時26歳だった下原さんが職業として選んだのは飲食業だった。お気に入りのダイニングバーで居場所を客席から厨房へと移して修業をスタート。その後、溶岩焼き、焼鳥店を経て30歳過ぎで焼肉店で働き始めた。
「ダイニングバー時代のマスターから言われた『食べるときも、料理に何が入っているか常に考えろ』という教えをずっと守っています。続けるうちに、食べた料理と似た味が作れるようになって、そのうち食べたものよりうまい味を出せるようになってきた。ただヒントを得るのは、和食だったり、フレンチだったり、違う業態からということが多いですね」
冒頭の詠唱メニュー「燻しカルビ」(1,199円)もそうだ。「波ぁっ!」という掛け声とともに放たれたカルビは、網の上でボール状からほどかれ、雪平鍋をかぶせられる。逆さにした鍋の中に炭火から立ち上った煙が充満し、薫香がつけられるという仕立てだ。

肉
肉
肉
雪平鍋をかぶせられた肉
雪平鍋をかぶせられた肉

「かーめーはーめー……」というプレゼンテーションは、皿に描かれたマンガありき。実は料理に軸足を置いたメニュー開発だ。もともとはフレンチなどで使われる小型燻製器「スモーキングガン」での燻製が発想の土台となっている。
ふた代わりの雪平鍋を取った瞬間、煙がぶわっと立ちのぼりテーブルが沸く。トッピングの専用卵黄だれ(209円)に絡めると、みるみる肉の山が消えていく。

肉
この日の盛りつけ皿は「スタンド」でおなじみの奇妙な冒険のお皿。

焼肉以外の飲食経験が多い分「焼肉はこうあるべき、という固定観念がない」と下原さんは言う。だからいまなおメニューは膨らむ一方。「どのメニューにも誰かしらファンがいて、そのお客さんの顔が浮かんでくると。削れないんです。仕込みは大変ですけど、仕方がありません」と苦笑いする。
下原さんが目指すのは「最初から最後までずっと『美味しい』焼肉」だ。
だからスターターのキムチ盛り合わせから手作りだ。レギュラー野菜は、白菜、ニラ、長芋など。時期によってゴボウやアボカドなどが加わる。

キムチ盛り合わせ

そこに「不動の一番人気」となる肉前菜、塩ゆで牛タンが登場する。焼くと硬くなりやすいタン下をやわらかく煮込んだ。一皿あたりの肉量は焼肉一人前よりも多い130g! ほぼすべての客が注文する看板の品だ。

肉

ここからたいていの客が焼肉に突入する。肉は九州の黒毛和牛が中心で、先の「燻しカルビ」に象徴されるように、とにかく仕立てが多い。
「小さい店なので、提供部位が限られるから」と言うが、店内はメニュー短冊がびっしり。数量限定の和牛切り落としカルビ(1,529円)はリーズナブルにいい肉が味わえる。部位やカットが違うということは、ひと切れごとに味も噛み応えも違う。ふぞろいなのはむしろ望むところ! 「和牛+米国 ハラミ食べ比べ」という焼肉好きが喜ぶメニューも小体な店ならでは、少人数でもあれこれ楽しい王道焼肉も満載だ。

肉

一方、その他のメニューも「いつもの焼肉屋」とは違う発想に満ちている。しゃぶしゃぶ上レバー(1,199円)は、ごま油を張った小鍋を網にのせて温め、そこにレバーをくぐらせる。これほど手軽に、レバーに精妙な火入れができるメニューは初めてかもしれない。繰り返し申し上げますが、いいレバーは火入れをした方がおいしい。

肉
肉
肉
肉

肉だけではない。知り合いの青果卸に「面白くて美味しい、焼き野菜はないか」という相談から始まったのが、ジャンボマッシュルームの焼き物だ。ひとつ8~10cmもあるマッシュルームだけに価格は時価。この日も2つで1,419円という値付けで、青果卸に「もっと取らないと」と叱られるが、それも店主はどこ吹く風。

ジャンボマッシュルーム

七輪の上でじっくり炙る。内部からのジュースが出てきたらバターを乗せてマッシュルームのジュースと仕上げに醤油を垂らすと香りがふわりと漂う。そこに大きなペッパーミルで挽きたての黒胡椒をガリガリと。湯気から爆発的な芳香が立ち上る。

ジャンボマッシュルーム

野菜は季節ごとに野菜を入れ替えながら展開する。白ナスや長ねぎは中がとろとろになるまで焼いてから特製の塩だしに浸して味を含ませる。夏の一瞬しか入荷しないジャンボピーマンは丸のまま焼き上げて(わかってるう!)、仕上げに特性の香味醤油だれなどなど、実に引き出しが多彩。
カットしたマッシュルームは口の中で旨味が暴発する。レモンのような香りが立つのは挽きたて胡椒ならではだ。黒毛和牛に引けを取らない旨味が残り2切れになったら、ガーリックチップをのせた「ちびライス」が供される。皿に残ったバター醤油ときのこのジュース。ここににガーリックチップライスを入れて混ぜる。すべてのエキスをライスが吸った極上のリゾット(もしくはガーリックライス)が出現する。

ジャンボマッシュルームごはん
ジャンボマッシュルームごはん
ジャンボマッシュルームごはん

この時点で満足度は120%だが、シメで断トツの人気はドライカレー(979円)も食べ逃せない。味の土台は大量の玉ねぎ炒めとトマトといううまみ全開仕様。たっぷりの和牛と牛タンの合い挽き肉に温玉がまろやかに絡む。

ドライカレー

真摯に味を組み立てながら、メニューのそこかしこに遊び心が顔を出す。仕入れや仕込みだけではない。ジョッキのサイズは「普通」、「横綱」(2倍)、「理事長」(3倍)。相撲の夢を焼肉に持ち替えた店主の工夫が、店の隅々まで効いている。
うまくて楽しくてリーズナブル。西荻窪「丈虎苑」の焼肉は誰にも似ていない。

店主

店舗情報店舗情報

炭火焼肉 丈虎苑(たけとらえん)
  • 【住所】東京都杉並区西荻南3‐8‐7 ロイヤルシティ西荻窪1階
  • 【電話番号】03‐6454‐2989
  • 【営業時間】17:00〜24:00(閉店時間は目安)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】JR「西荻窪駅」から2分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。