“生涯食いしん坊宣言”!食いしん坊ドクターが教える食べる喜びを手放さないための健康戦略
【救急集中治療医は見た!食いしん坊の思わぬ落とし穴①】猛威を振るう熱中症。倒れてしまう人に多い共通点とは。

【救急集中治療医は見た!食いしん坊の思わぬ落とし穴①】猛威を振るう熱中症。倒れてしまう人に多い共通点とは。

熱中症警戒アラート!今年は何度、目にしたことでしょう。年々暑さが厳しくなる日本の夏は、無策で過ごすにはあまりに無謀。10月ごろまで残暑が続くとも言われています。真夏がすぎても油断せず、体を労わる知恵を身につけましょう。

熱中症。わかっちゃいるのに、なぜなってしてしまうのか

はじめまして。食いしん坊倶楽部メンバーで、救急集中治療医として働く平松玄太郎と申します。「より良いグルメライフ」を存分に楽しむためには、心身ともに健やかに保つことが一番。日々いろいろな患者さんと向き合う中で、救急集中治療医の視点から気づいた盲点や、知っておきたい豆知識などをお伝えしていければと思います。

残暑厳しい時期となった今も熱中症患者の搬送が相変わらず多いです。熱中症は夏の季節病で、春の花粉症や冬のインフルエンザと同じように思われるかもしれませんが、この中で圧倒的に重症化リスクが高いのが熱中症です。テレビやネットなどでかなり注意喚起がされるようになり、「熱中症においては、水分だけではなく塩分の摂取も大切」ということは、随分浸透してきました。

しかし実際は、その知識はあるはずなのに熱中症になってしまい、運ばれてくる方は多い。もう少し詳しく言うと「自分が暑い環境にいることに気付けていない」、つまり「熱中症の危険がありそうだから気をつけなければ」という発想に至っておらず、倒れてしまうんですね。臨床の現場で最も多い重症化ケースがこのパターンで、特に高齢者が多いです。年を重ねると外気温に対するセンサーが鈍くなり、汗をかいて体温を下げる機能も衰えてきます。すると外で農作業をしていても、また室内が猛暑になっていても暑さに気がついていないので「水分をこまめに取ろう」とか「エアコンをつけて室温を下げよう」という行動に移せないのです。逆にクーラーの効いた部屋に入ると「寒い」と感じてしまい、真夏なのにニットやブルゾンを着込んでいる高齢者の姿は老人ホームなどではよく見かける光景です。

熱中症予防の秘訣はずばり「客観的」に判断すること

ではどのようにして熱中症を予防すればいいでしょうか。一つ言えるのは、「自分が暑いと感じてから水分を摂る」ではなく、「『今日は暑くなる』という客観的情報があれば水分を摂るようにする」です。

ガンコな“お爺ちゃま”や“お婆ちゃま”にこれを伝えてもまず間違いなく「本当に暑くないんだよ!」と言われてしまうので、ご家族やお世話をしている方がしつこく言って聞かせるしかありません。

熱中症は重症化すると意識朦朧状態となります。「あっ、やばいかも」と思った時にはすでに遅し。そのまま倒れてしまい、誰かに見つけてもらうしか助かる道がなくなってしまいます。この発見時間が遅れるとさらに分単位で重症化していき、病院に搬送されて治療を施しても、植物状態になったり、最悪の場合は死に至ったりすることもあります。

「あっ、やばいかも」と思ったときにはすでに遅し

熱中症が進んでくると、吐き気や倦怠感などが出てきますが、初期のうちは口渇感(口の中が渇く感じ)や発汗などしかなく、暑い時に人が感じる一般的な症状につき、どこまでが正常でどこからが熱中症かを線引きするのは難しいです。あくまでもリスクの高い状況に置いて、適切な水分摂取を行えているかどうかが、熱中症になるかどうかの分岐点かと思います。ある患者さんから「熱中症にならないように普段から漬物や味噌汁を摂るようにしています」という話を言われたことがあります。普段の食事に意識的な人ほど「食べもので何とかできる」と油断しがちですが、少し違っていて、普段の生活習慣で予防できるものではないのです。それはおいしいものをたくさん食べている食いしん坊のみなさんも同じです。

では、危険信号が灯ったとき、どんな対策をするとよいのでしょうか。
後半では、「適切な水分と塩分の摂取」に効果的な飲料について、お話ししたいと思います。

教える人

平松 玄太郎 先生

埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。

文:林 律子 写真=iStock.com/sbayram