11月29日と聞けば、食いしん坊なら語呂合わせから「いい肉の日」と答える人も多いはず。しかし!そこに”待った”をかけるのが、海を代表する高級食材・ふぐである。こちらも「いいふぐの日」を主張して、一歩も譲らない。はたしてどちらに相応しいのか……。マッキー牧元さんのレシピによる「しゃぶしゃぶ」対決で、いざ勝負!
吾輩はいい肉である。
いやいや。
吾輩はいいふぐである。
食材はまだ決まっていない。
11月29日が近づくと、食いしん坊の間ではそんな議論があるのではないだろうか。
最適解を見つけるべく、国産食材を食べて日本を元気にするため農林水産省が促進している「#元気いただきますプロジェクト」を活用して、この雄々しくも壮大なテーマに臨んでみることにしよう。
「#元気いただきますプロジェクト」は、新型コロナウイルス感染症の影響で行き場を失ってしまった国産食材を対象のECサイトやデリバリーサイトで購入すると、生産者をはじめとした食に関わる人を応援できるという仕組み。国の送料支援でいつもよりちょっとお得に高品質の国産食材を楽しめるチャンスなのである。
11月29日に食べるのは肉なのか、ふぐなのか。全国の食いしん坊を代表して意見を求めたのは、フードプロデューサーとして活躍し、年間600食近くを食べ歩くタベアルキストでも知られているマッキー牧元さん。
年末が近づき肌寒くなり、ご馳走が恋しくなる時季。一体どちらの食材が良いのでしょう?
「これは難しい問題だね。せっかくだから、僕流のしゃぶしゃぶで和牛とふぐを味わってみて、考えましょうか」と、マッキーさんは気合いを入れて腕まくりする。
後日、マッキーさんからそれぞれに合わせた自慢のつけダレが完成したと連絡があり、都内のキッチンスタジオで実食することになった。
数十種類の調味料をキッチンに広げると、マッキーさんはギラリとした鋭い光を目に宿して呟いた。
「僕はしゃぶしゃぶをするとき、メイン食材のほかは箸休めのねぎしか入れないんだよ。具材が増えると、その分煮えるタイミングを見極めるのが複雑になるからね。食べ飽きないために2種類ずつつけダレを考えてきたから、交互につけて食べ進めてみましょう」
二つの土鍋にシンプルな昆布だしを張って、いざ実食!
和牛しゃぶしゃぶのためにマッキーさんが用意したつけダレは、旨味たっぷりの煎り酒と濃厚ジンジャーダレ。
煎り酒は、しゃぶしゃぶでサッと脂を落とした霜降り肉を旨味だけであっさりと味わうためにつくったそうだ。対して濃厚ジンジャーダレは、赤身肉にどっぷりとつけてご飯にバウンドさせていただく甘辛い味わい。
どちらも手づくりすることで、塩味や旨味を調整して牛肉と相性抜群に仕上がっている。
梅干し | 3個 |
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昆布 | 3cm |
鰹節 | 4g |
純米酒 | 400mL |
塩 | 1g |
すべての材料を鍋に入れ、中火にかける。ひと煮立ちしたら弱火にして、純米酒が半量になるまで煮詰める。
ボウルに重ねたザルにキッチンペーパーを敷き、1を注ぐ。丁寧に漉したら出来上がり。
生姜 | 20g |
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玉ねぎ | 35g |
りんご | 1/2個 |
にんにく | 1片 |
昆布鰹だし | 150mL |
濃口醤油 | 45mL |
味醂 | 20mL |
日本酒 | 15mL |
りんご酢 | 15mL |
ハチミツ | 25g |
玉ねぎ、りんご、にんにくは皮をむき、すりおろす。生姜は皮付きのまますりおろす。
1とすべての調味料をボウルに入れて混ぜ合わせたら出来上がり。
続いて、身がプリプリな天然ふぐのしゃぶしゃぶ。
「ふぐは旨味の塊のような魚だから、シンプルに食べ続けると単調になってしまう。酸味や辛味を合わせて、ふぐの旨味を引き立てながら食べ進めるつけダレを考えました」と爽やかな色合いの果汁を取り出すマッキーさん。
酸味が穏やかなだいだいの果汁を使って二つのつけダレをつくるそうだ。
一つには、かんずりという新潟に古くから伝わる塩漬けの唐辛子を発酵させた調味料を合わせる。もう一つには、ふぐの魚醤と豆乳を合わせて、仕上げに細かく砕いた桜海老を加えるという。
だいだい果汁 | 200mL |
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醤油 | 15mL(1cmの昆布を一晩漬けたもの) |
かんずり | 5g |
ボウルにだいだい果汁と醤油を入れ、かんずりを溶き混ぜたら出来上がり。
だいだい果汁 | 200mL |
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桜海老 | 8g |
白胡麻ペースト | 5g |
ふぐ魚醤 | 15mL |
醤油 | 15mL |
豆乳 | 15mL |
桜海老はフードプロセッサーなどで細かくなるまで刻む。フードプロセッサーがなければ、包丁で細かく砕く。
すべての材料をボウルで合わせたら出来上がり。
和牛とふぐをたらふく食べて満足そうなマッキーさん。
11月29日に相応しい食材は決まりましたか?
「うーん、どちらも甲乙つけがたいけど、今日は和牛に軍配が上がったかな。霜降り肉と煎り酒の組み合わせがとびきり旨かったね。国産食材をおいしく楽しめて、日本の食の応援ができたから良い気分だよ」とニッコリ顔。
最後に、タベアルキストとしてのマッキーさん流「#元気いただきますプロジェクト」の楽しみ方も訊いてみた。
「食材をお取り寄せした人にお薦めしたいのは、ぜひ自分の意見をアンケートや口コミ欄などで伝えてほしいということ。できれば、おいしかったという感想だけでなくて、要望や届いた食材の状態なども添えると良いね。生産者や販売者に食べ手の声が届くことで、もっと良い商品をつくるきっかけになるはず」
商品の良かった点を先に挙げてから具体的な要望を添えるのがコツ、と文筆家としての一面を披露して、マッキーさんは今晩予約しているという飲食店へと向かった。
「#元気いただきますプロジェクト」は生産者も、販売者も、料理人も、食べ手もみんな集まり、国産食材を食べて日本を元気にするプロジェクト。
SNSでは「#元気いただきます」の投稿から、プロジェクトに賛同する人たちの支援の輪が広がりつつある。
善は急げだ。気軽な投稿やECサイトの注文が日本の食を盛り上げる!ぜひお試しあれ!
「ニッポンセレクト」
「あじたび」
1955年生まれ。立教大学卒。全国および世界中で年間600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。
文:河野大治朗 写真:牧田健太郎