一生食べ続けたいひと皿
実家の"味噌おでん"|ライター・岡村理恵

実家の"味噌おでん"|ライター・岡村理恵

根菜のたっぷり入った味噌おでんは、母のに教わった思い出の味だという。特別なときに食べるハレの料理でもなく、いつもの普段の食事でもなく、ただ美味しいとか、好きだとか、ということでもなく、常に身近にあって食べ続けたいもの。人生や思い出と、いつも、いつでも結びついている。そんな、一生食べ続けたい「ひと皿」を食いしん坊に聞きました。

レシピは育つものと知った料理

それは、母がつくっていた料理で“味噌おでん”と呼んでいた。名古屋風の赤味噌仕立てではなく、里芋、大根、こんにゃくと豚バラのかたまり肉を信州味噌と砂糖で味つけした甘味噌味。とろんと煮えたバラ肉と、脂っこい味噌味がからんだ里芋がおいしくて、10代の私はモリモリ食べたものだ。

里芋は丸ごと、大根は厚い輪切り、こんにゃくは大きな三角形に切るのが決まり。それぞれ下ゆでして、豚肉を水からゆでた鍋に放り込む。先に砂糖を入れ、ほどほど煮えてから味噌を加えてさらに煮る。鍋からはみ出すほど具が山盛りになるから、ふたはおまじない程度に上にのせ、煮ながらかさが減るのを待つのだった。

作業は単純だが時間のかかる料理だから、働いていた母は週末につくっていたように思う。常々「料理をゼロからは考えられない。レシピを見てつくるタイプなの」と言っており、この煮込みも何かのテレビで見て知ったようだ。私が一人暮らしを始める時につくり方を尋ねたら、味噌と砂糖の割合だけを書いたメモを出してきて、「最初に見たときより、砂糖の量は減らしたんだよ」と言っていた。

自分でつくり始めた当初は、鍋に入りきらないし、下ゆでも面倒だしと、具の種類を減らしてみたことがある。だが、どれか一つだけを減らしても、不完全な感じになる。ダイエットの気持ちからこんにゃくを倍増してみたり、味噌の種類を変えてみたり、我が家の鍋の大きさと労力に折り合いをつけながらつくるうちに、私の味噌おでんはどんどん適当になっていった。それでもおいしく煮えるのは、味噌という包容力のある調味料のおかげだと思う。

帰省した際、母がつくる様子をみて、つくり方が違う!と思うこともあった。「もう少し砂糖を減らしてみたのよ」とその時の母は言っていた。「でも、甘くないとおいしくない」。長年つくっていても、つくり方を変えてみたくなることもあるんだなぁ。

今では、母はもう料理づくりから引退し、実家の味噌おでんは姉がつくっている。姉の息子、娘たちも大好物。彼らが子どもの時は、鍋中の豚バラ肉は争奪戦で、大人は「こっちのほうがウマいのに」と、こんにゃくや大根を楽しんでいた。2世代同居の大所帯だから、具材や味噌、砂糖の量は私とは違う。ふと、姉が今どんな風につくっているのか気になって尋ねたら、「レシピはもうない」という返事だった。レシピはどんどん変化する。その人、その家の味になっていく。それを一番感じる料理だ。

ちなみに、このおでんは、2日目がおいしい。翌日、鍋のふたをあけると豚の脂が白く固まっているからそれを取り除いて、また煮て食べる。どんどん味がしみていく。大人になると、豚バラなんて1かけ程度でよくなって、むしろ、味がしみしみの大根やこんにゃくのために豚バラは入れるのだと思うようになった。

みそおでん

岡村理恵さんの“豚バラと里芋の味噌煮込み”のつくり方

材料材料 (4人分)

豚バラ500g(塊)
大根1本
里芋8~10個
こんにゃく1~2枚
1200cc
味噌100g
砂糖大さじ2

1具材の下準備

豚バラ肉は3㎝角に切る。大根は2㎝幅の輪切りにし、皮をむく。里芋は皮をむく。こんにゃくは三角形に切る。

2具材の下ゆで

大根、里芋、こんにゃくはそれぞれ下ゆでする。

3豚バラを煮る

大き目の鍋や土鍋に①の豚バラ肉と水を入れ、20分ほどゆでる。アクが出てきたら都度すくう。

4具材を加える

③にそのほかの具材と砂糖を加え、中火で15分ほど煮る。

5仕上げる

④に味噌を加え、弱めの中火で40分ほど煮る。

文・写真:岡村理恵

岡村 理恵

岡村 理恵 (ライター)

群馬県生まれ。出版社勤務を経て独立し、食を中心としたライター・編集者に。料理はもちろん、畑や漁港からスーパーなど食に関わる現場、食卓をつくっている人々に興味あり。