“Bean to Bar”のABC
"Bean to Bar"が拓くチョコレートの新しい世界。

"Bean to Bar"が拓くチョコレートの新しい世界。

近年、チョコレート業界で注目を集めている“Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)”。見た目は普通のチョコレートと変わらないけれど、実は生まれも育ちも違います。「Minimal(ミニマル)」の山下貴嗣さんに、ビーン・トゥ・バーについて訊きました。

カカオ豆と板チョコのおいしい関係。

“Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)”は、カカオ豆の仕入れ、選別から板チョコレートができるまでの工程を一貫して手がけます、という意味です。Beanはカカオ豆、Barが板チョコレートのことを指しています。

2007年頃に、アメリカでビーン・トゥ・バーという言葉が使われるようになりました。「マスト・ブラザーズ・チョコレート」(現在は「MAST」)という店が、クラフトチョコレートをつくり始めたのがきっかけと言われています。洗練されたパッケージと添加物なしのチョコレートが、ニューヨーク土産として人気を集めたんです。

2014年に勤めていた経営コンサル会社を退職して、「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」を立ち上げた山下貴嗣さん。カカオの職人・パティシエ・バリスタ・ソムリエなど多様なメンバーを擁するチームをつくり、「インターナショナルチョコレートアワード世界大会2017」では金賞を受賞するなど、世界的な評価も高い。現在34歳。
2014年に勤めていた経営コンサル会社を退職して、「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」を立ち上げた山下貴嗣さん。カカオの職人・パティシエ・バリスタ・ソムリエなど多様なメンバーを擁するチームをつくり、「インターナショナルチョコレートアワード世界大会2017」では金賞を受賞するなど、世界的な評価も高い。現在34歳。

一方、ヨーロッパではパティシエやショコラティエが質の良い主原料に注目して、カカオ豆からチョコレートをつくる動きが活発になりました。
2010年頃に、アメリカとヨーロッパの流れが合流して、ビーン・トゥ・バーが世界的にわーっと広まったんですね。

これまでのチョコレートとの違いとは?

ビーン・トゥ・バーの考えが広まり、良質なカカオ豆と砂糖だけでチョコレートがつくられることが多くなった。
ビーン・トゥ・バーの考えが広まり、良質なカカオ豆と砂糖だけでチョコレートがつくられることが多くなった。

従来のチョコレートづくりは、クーベルチュールを使うのが主流でした。カカオ豆の含有量や脂肪分に、厳密な規定を設けた製菓用の量産に向いたチョコレートですね。
流通が整い、質の良いカカオ豆が手に入るようになると、カカオ豆本来の香りや味わいの個性にフォーカスするつくり手が増えたんです。コーヒーで言われるところのスペシャルティコーヒーの伝播に近いのかもしれません。

ビーン・トゥ・バーは、大量生産の大企業から個人のショコラティエまで誰にでもできるものです。製造規模によってカカオ豆の仕入れ方がまったく違うし、製法も自分たちの考えに合わせたものでいい。僕はチョコレートのつくり方というよりは、カカオ豆との付き合い方だと考えています。

カカオの主要原産国は赤道直下の熱帯地域。気候・土壌・農法・生産者などの条件の掛け合わせで、同じ味わいがふたつと生まれない、複雑な農作物。
カカオの主要原産国は赤道直下の熱帯地域。気候・土壌・農法・生産者などの条件の掛け合わせで、同じ味わいがふたつと生まれない、複雑な農作物。

ビーン・トゥ・バーに関わっている人たちに共通しているのは、「良いカカオ豆が欲しい」という思いです。
機械で大量につくる場合は、量を前提とした品質基準や物流、生産性などの観点で産地やカカオ豆を選んでいるのだと思います。渋みが少なくて油分を多く含んだ、口どけの良いカカオ豆が好ましいのではないでしょうか。

カカオ豆は産地、地域、季節などによってまったく風味が異なります。僕たちのような小規模製造者は、まとめて大量に仕入をすることはできませんが、逆に細かい単位ごとに良い豆かどうかチェックして、独自で手づくりの製法を試すことができます。たとえば、一般的に安価なイメージのガーナ産のカカオ豆でも、ポテンシャルを活かすことができれば、とんでもなく美味しくオリジナリティのあるチョコレートができる可能性がある。そこが、ビーン・トゥ・バーの面白いところだと思っていますね。

――つづく。

店舗情報店舗情報

Minimal 富ヶ谷本店
  • 【住所】東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9
  • 【電話番号】03-6322-9998
  • 【営業時間】11:30~19:00
  • 【定休日】なし
  • 【アクセス】東京メトロ「代々木公園駅」より6分、小田急線 「代々木八幡駅」より6分

文:河野大治朗 写真:萬田康文

河野 大治朗

河野 大治朗 (編集者)

1991年生まれ。茨城県出身。2018年「塚田農場 浅草店」店長から、dancyuのweb編集部で働きはじめる。自分の好奇心を大切に、気になることはやってみる。一人前の編集者になるため修行中。特技は羊の解体。趣味はきのこ狩り。