日本のワイナリーを巡る。
オフィスビルの一画を借りた、都市型ワイナリー。
フジマル醸造所の入り口。オフィスビルの中にある。 フジマル醸造所の入り口。オフィスビルの中にある。

オフィスビルの一画を借りた、都市型ワイナリー。

大阪はミナミの島之内にある、島之内フジマル醸造所。醸造家の藤丸智史さんが、街中にワイナリーがある意味を大いに語ります。ぶとう畑が近くになくても、ワイン造りができる「都市型ワイナリー」の妙。

街のワイナリー。

大阪・島之内は、四方を川に囲まれた土地であることを由来とする地名だ。島之内フジマル醸造所が位置する場所も、かつては北に長堀川(現在は埋め立てられて大通りになっている)が流れ、現在でも南に道頓堀川、東には運河を望む。大阪有数の繁華街・心斎橋からは徒歩15分程度。いわゆる“ミナミ”と呼ばれる歓楽街からも至近距離だが、実際に訪れてみると、醸造所がある一帯は心なしか閑静な雰囲気が漂う。島之内フジマル醸造所の醸造家・藤丸智史さんによると、「住友家のお膝元なので、治安が良く落ち着いていて、真空地帯のようになっているんです」。辺りを眺めてみると、確かに島之内フジマル醸造所の正面には住友家が寛永期につかった銅精練所が史跡として残され、その付近には住友グループのオフィスビルがいくつも並んでいる。藤丸さんはなぜ、このような都市部にワイナリーをつくったのだろうか。

醸造家の藤丸智史さん
醸造家の藤丸智史さん。ワインショップや、東京の清澄白河フジマル醸造所の経営者でもある。飲食業界でソムリエとして経験を積んだ後、欧州やオーストラリアのワイナリーを巡ってワインづくりを研究した。

藤丸さんの醸造家としての歩みは、2010年に着手した大阪・柏原でのぶどう栽培から始まった。はじめは10a程度の小さな規模だったが、ほかの農家から委託を受けながら約3年で1.5haにまで成長。満を持して、醸造所を構えることにした。

だが、いきなり、壁にぶつかる。自分の条件に合う土地が見つからなかったのだ。

最初は、ほかのワイナリーと同じように畑に隣接した場所に醸造所をつくろうと思っていたんです。ところが柏原は地代が高く、とても手が出せなかった。そこで、エリアを変えて探し始めたんです。

低予算での土地探しは難航した。藤丸さんは改めて、ワインを醸造するために、本当に必要な条件を考え直すことにした。出た答えは、「良質なぶどうを手に入れること」。ただそれだけだった。ワインの醸造には水を使わないので、水質の良い土地でなくても良い。それならば、都市部でも良いのではないだろうか。しかも、都市部ならば交通網が発達しているいので、ぶどうや物資の輸送もしやすく、人も訪れやすい。そんな逆転の発想からたどり着いたのが、オフィスビルの一画の、もとはセメント屋として使われていた物件だったのである。

フジマル醸造所の入り口
醸造所が入るオフィスビル。他の階層や物件は、今も複数の企業のオフィスとして使用されている。
フジマルで飲むワイン
まさか、おいしいワインが、オフィスビルで造られているとは想像できない。ワイン秘密基地のよう。

街中にあるからこそ、できること。

土地面積は90平方メートル。温度管理がしやすく日光も入らない地下はセラーとして使用し、1階を発酵などの作業スペースに、2階をレストランにした。

昔から自分が考え続けているのは、日本でももっと多くの人が日常的にワインを楽しむようになってほしい、ということ。予算の事情で都市部に醸造所を構えることになったけれど、人々にとっては訪れやすく身近なものになった。結果、ワインを身近にしたいという自分のそもそもの理念にあっていたんです。

街中にあるおかげで、ランチやディナーなど、普段使いのレストランとして訪れることもできる。都市型ワイナリーは、利点だらけだった。

ワインと料理
“富田林産海老芋のフリット ドライトマトバター添え”1,404円と“工場直送樽ワイン”540円。レストランでは、季節ごとに地域食材を使ったメニューを取り揃えている。
醸造所の窓から見える運河
2階のレストランの窓からは、醸造所の裏側を流れる運河を眺められる。
スタッフ3名
左から岡学シェフ、サービスの坪井このみさん、マネージャーでソムリエの河端浩史さん。
醸造所の窓から見える風景
醸造所の正面には住友銅吹所跡が見える。川に囲まれたこの地は物流の便もよく、寛永年間にはここで盛んに銅精練業が営まれた。
お店の立看板
レストランでは、自社醸造ワインをはじめ、国内外の様々なワインを取り揃えている。
お店の内部
階段やむき出しのパイプには、醸造所をつくる以前のセメント屋として使われていた時代の名残があり、趣深い。
吹き抜けから見えるワイン樽
もともとあった1階から2階への吹き抜けもそのまま残し、レストランに来た人たちが醸造所を見られるようにしている。

多くの人にとって、もっとワインが身近になればいい。2階のレストランの看板メニュー「工場直送樽生ワイン」も、藤丸さんのそんな思いから生まれている。

ヒントになったのは、同窓会に出席したこと。当時僕は30代後半で、同級生のほとんどは、月3万円前後のお小遣いをやりくりして飲み会に参加していました。気軽に飲めるお酒は一杯450円前後のビールやサワー。ワインはグラスでも1000円前後するから、高くて飲めません。そこで、なんとか生ビールと同価格で出せるワインを造れないかと模索し始めたんです。

考え付いたのは、瓶、コルク、ラベルなどすべての消耗品を省いた樽生ワイン。さらに、フレッシュで爽やかなので、生ビールのようにするする飲めるのも特徴で、価格を抑えただけではなく、飲み心地の面から見ても、生ビールやサワーのポジションに食い込めるワインだった。レストランの小窓から見える1階の醸造所のタンクからダイレクトに運ばれた樽生ワインを飲める、という点も、魅力のひとつだった。

ワインを樽から注ぐ
“工場直送樽ワイン”は、2階のレストランで540円~。赤や白など、その時々で異なるワインを提供。ピチピチとしていて、フレッシュな喉越し。

都市部という立地、工場直送生樽ワイン。このふたつだけでも十分に個性的だが、それ以外にも特徴的な部分が多い。特注のプレス機など、醸造所のなかを見渡せば、一風変わったものが並んでいる。醸造所を経営するようになってから、いろいろなものを手づくりをするようになった、と藤丸さんは話す。

お金がないなかで、どうやってワインを造ろうかと考えぬいた結果なんです。発想が自由とか、アイディアが豊富、というのとは、少し違うかもしれません。

島之内フジマル醸造所は都市型ワイナリーの第1号として国内外から注目されるようになり、醸造家たちが頻繁に訪れるまでになっている。特注のプレス機も、もとは海外から輸入するコストを下げようとしてつくったものだが、国内用モデルとして、ほかの醸造家から参考にされるようになった。

ワインを造る地下のスペース
地下1階では、甕を使った醸造も行っている。ワイン発祥の地・グルジア(ジョージア)の伝統的な醸造法で、甕は藤丸さんがグルジアで購入した。
プレス機
ぶどうを押しつぶすためのプレス機も特注。海外のプレス機の構造をもとにして国内の業者が図面をおこし、醸造所の規模に合わせた大きさにした。
たくさんのステンレス樽
2階のレストランで提供する“工場直送生樽ワイン”用のステンレス樽も特注。「樽1個の値段は瓶1本よりもコストがかかるけど、10回以上使えばもとをとれるんです」。
4つのワイン樽
島之内フジマル醸造所では、基本的には大阪府内でとれたぶどうのみで醸造。2017年には、3万5000本のワインが造られた。
藤丸さんとステンレスのワイン樽
地下1階はセラー。以前はセメント屋の倉庫として使われていた空間を、掃除してそのまま使っている。

ワインを好きになってほしいと願う。

2階のレストランでは、醸造所で造ったワインだけではなく、国内のほかのワイナリーのワインを飲むこともできる。さらに、レストランはワインショップとしての機能も備え、ボトルを買って帰れるようになっている。

自社ワインだけではなく、ほかのワインも揃えているのは、お客さまに『日本にはこんなにも、おいしいワインがあるんだ』と知ってほしいから。ワインのおいしさや奥深さをさらに詳しく知ってほしいこもあって、海外のワインも揃えています。

この醸造所を訪れたことをきっかけに、ワインへの興味をさらに広げていってほしい。それが、藤丸さんの願いだ。

5本のワイン
山形や長野、石川など国内の各地のぶどうを使った自社醸造ワイン。基本的に島之内フジマル醸造所では大阪府内のぶどうを仕入れ、それ以外の地域のぶどうは東京の清澄白川フジマル醸造所での醸造に使われている。
店名とそれを照らす照明
入り口を照らす照明は、藤丸さんが量販店で仕入れて取り付けたもの。「壁に貼り付けた店名も、実は文字を大きく印字してタイルをカットしただけ。手づくりの部分が多いんです」。

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記事で紹介したワイナリー

島之内フジマル醸造所

大阪府大阪市中央区島之内1-1-14 三和ビル 1F

お問い合わせ TEL.06-4704-6666

文:吉田彩乃 写真:三木匡宏

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