d酒を造りました!
d酒はこうして造られた。松崎晴雄さんの巻

d酒はこうして造られた。松崎晴雄さんの巻

世界のあちこちでマイクロブリュワリーの酒蔵が誕生している。ガレージブリュワリーとも呼ばれるように、ガレージのような小さな空間に醸造所をつくる人がいる。d酒を醸した学校蔵は元理科実験室。言うならばサイエンスラボブリュワリー!世界中の酒蔵を訪ねてきた松崎晴雄さんが、酒造りを体験するのは約20年ぶり。日本のマイクロブリュワリーで、どんな酒に挑戦したのか。

歴史浪漫をd酒に託してみたら。

日本のマイクロブリュワリー
海外のガレージブリュワリーでは、YouTubeを参考に見よう見真似で酒造りをはじめる人もいる。小さいロットだからこその自由な発想で酒造りを楽しんでいる。さて、日本のマイクロブリュワリーはというと。学校蔵は20年前に体験した手仕事とさほど変わりがなかった。最新型の洗米機があった以外は、ほぼ手仕事で、丁寧な小仕込みの酒造りをしていた。

今は本当に造り手と飲み手の距離が近い。日本酒に関するイベントは目白押しで、酒蔵の人たちと直接話せる機会は少なくないし、見学を受け付けている酒造メーカーも結構多くなった。インターネットを通じていろいろな情報も入ってくるし、中にはフェイスブックで蔵元とお友達、という人もいるはずだ。

でも酒造りを行うとなると、これはまたまったく別の話。酒造免許や衛生面の問題など、諸々の理由はあるけれど、何といっても複雑な工程や微妙な勘などが要求されるだけに、そこはプロフェッショナルな杜氏、蔵人以外はタッチできない領域なのだ。

そこに今回、dancyuのwebがオリジナルの酒を企画し、製造を行う際に酒造りにも参加できるという企画を立てた。そのスペックなども含めた監修を任されたのだが、これは読者の皆さんに代わって、なかなかできない造りの現場を経験して、その中にあるいろいろな事柄を発信することと思った。

佐渡の海
その昔、流刑の民による能などの貴族文化が佐渡へ渡り、佐渡金山が徳川幕府の天領となると武家文化、さらには北前船の寄港地として上方文化が伝播した影響がいまだに残り、それぞれが混じり合った独特の文化をもつ。佐渡で造るd酒だからこそ、歴史浪漫を託した酒を造りたい。松崎さんの思いはそこにあった。

まず考えたのは、酒蔵のある「佐渡らしさ」という要素を入れていくこと。日本全国1500近くあるといわれる酒蔵の中で、そこで造るからには何かその土地を語るものがなければいけないのでは、と思ったのである。

もうひとつは、何といっても日本酒の情報を四半世紀にわたって追い続けてきた、dancyuである。その間のトピックスや将来の日本酒像とか、「日本酒の今を切り取る」ものも入れてみたいということ。特に“歴史の島”と言われる佐渡でもあるので、「現在と過去の融合した何か」を、この酒を通して表現できればと考えたのだった。

それが「越淡麗」という佐渡でつくった新潟県の酒米と、金沢の14号酵母を選んだ理由だ。

能登から酒が運ばれたと書かれている展示の史料
江戸時代、酒造りは新潟からではなく、北前船によって能登から運ばれてきたのではないか。その仮説の根拠を探しに佐渡国小木民族博物館へ。北前船で運ばれてきた道具や史料をじっくりと見る。その眼差しは真剣そのもの。能登から酒が運ばれたと書かれている展示の史料を見つけてにんまり!

飲む人によっては、懐かしさがあるかもしれません。

仕込みタンク
小さなタンクで造った酒母を大きな仕込みタンクへ移していると、松崎さんは「頑張ってくれよ」とつぶやいた。「あぁ、なんか情が移っちゃったなあ。少しでも自分で手をかけると特別な感情がこみ上げてきますよネ」。アレレ、いつも冷静沈着な松崎さんの様子が、ちょっと違う。酒造りとは人の心を動かす仕事なんですね。

結果として誕生したのは、“新潟らしい淡麗なスタイル”で“落ち着いたほのかな香り漂う純米酒”。あまり昔にまでは遡らないけれど、少し前の時代の主流ともいえる、飲む人からすれば懐かしさも感じる、酒に仕上がったのかなぁ。現在のトレンドとは違うけど、それだけに今の日本酒に問いかけるものも少しあったりして、「ただ漫然と造ったのではなく、いろいろと考えて造ったのですよ」と言いたくなる。

手ぬぐい
松崎さん、到着の日。手ぬぐいを締めてひと言「よしやるぞ!」。気合が入ってます。
あ、ずれた。
あ、ずれた。でもいったん置いた酒米は、米が割れるから動かせないのです。
佐渡を後にした
あっという間の酒造り。仕込みを終えて、満足した表情で佐渡を後にした。

ただし造り手の意図と飲み手の意向はまた別のもの。そこは日本酒が嗜好品たる所以でもある。このたび「d酒」という酒が出来上がり、そこに命と魂を吹き込んだのは確かに私たちだけれど、この酒を思うように愉しんでもらうのは、飲み手の皆さんに委ねられていること。

まあ、あまり難しいことは考えずに、こんなことも考えながら造っていたんだ、というラベルにも書いてある話を肴に、楽しく飲んでもらえれば幸いです。

歴史浪漫
「歴史浪漫というよりも、実際は少し前の時代(昭和の終わりから平成ひとケタ)の酒、という感じに仕上がっているような気がします。でも北国特有の澄んだ空気感が伝わってくるような酒にもなっていますよ」。見え方が変わると酒はもっと楽しくなる。歴史からひもとく楽しみ方は松崎さんのメッセージ。ひとりでも多くの人に届きますように!
d酒
d酒
酒米 佐渡産越淡麗100%
越淡麗は山田錦と五百万石を掛け合わせた、新潟生まれの酒造好適米。ふくらみがあり、穏やかな味わいのお酒を目指しました。

精米歩合 60%
玄米を40%削った吟醸造り。味わいをもちつつ、綺麗な飲み心地となるように酒質設計しました。

酵母 14号酵母(金沢酵母)
江戸の頃、北前船によって能登の酒造りが佐渡にもたらされたのではないか。そんな歴史ロマンに思いを巡らして選んだ金沢酵母は、果実のような爽やかで落ち着いた香りが特徴です。

原材料名 清酒(純米酒) 佐渡天然杉
清酒(純米酒)に新潟大学演習林の佐渡渡天然杉を浸漬して、 無濾過のまま瓶詰めしたお酒です (日本酒愛もたっぷり詰まっています)。

品目 リキュール
学校蔵はリキュール免許でお酒を醸しています。

内容量 720ml
一合徳利4本分です。

製造年月 2018年9月
8月1日から7日かけて仕込んだお酒を、9月末に瓶詰めしました。

製造者 尾畑酒造株式会社
新潟県佐渡市真野新町449「真野鶴」を醸す、1892年創業の酒蔵です。現在の蔵元は五代目。尾畑酒造の尽力があって、d酒は完成しました。

製造元 尾畑酒造株式会社 学校蔵
新潟県佐渡市西三川1337-1 廃校になった西三川小学校を、尾畑酒造が改装して仕込み蔵として再生。d酒は木造の小さな小学校で造られました。
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文:松崎晴雄 写真:当山礼子

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松崎 晴雄(日本酒輸出協会会長)

歴史をひもとき、日本酒の魅力を世界へ伝える日本酒界のマエストロ。各県の清酒鑑評会審査委員や、長野県や佐賀県の原産地呼称管理委員会官能審査員を務めるほか、「全米日本酒歓評会」「International Sake Challenge」などの国際的なコンペティションの審査員を担当。「日本酒ガイドブック」(柴田書店)など著書も多数。