d酒を造りました!
d酒はこうして造られた。其の参

d酒はこうして造られた。其の参

d酒プロジェクトは2017年9月にスタート。どんな原材料を選び、目指す酒はどこなのか。松崎晴雄さんと藤田千恵子さんが中心となって考えてみたものの、設計図を描くように緻密に酒質設計を立てる蔵元や杜氏の気持ちになってみると、これがなんと悩ましいことか! 

酒米をどうする?

緊張と興奮を行ったり来たりしながらの、ふたりの酒造りがスタートしたのは、この対談から約300日後のことでした。

蔵元である尾畑酒造の平島健社長から、連絡があった。2018年の夏に酒を仕込むなら、2017年の9月中には酒米を決めてほしいと。1年前から酒米を仕入れる段取りが必要だという。学校蔵はオール佐渡産の酒造りを目指している。新潟の酒造好適米の越淡麗か、五百万石か。それとも山田錦か。さあ、どうする。

藤田
学校蔵は佐渡産のもの、というお考えのもとで造っていらっしゃいますから、越淡麗がいいのではないでしょうか。越淡麗も、朱鷺の暮らす田んぼの酒米ですね。
松崎
コンセプトは歴史の島に浪漫を託す。現代風ではない酒質を目指したい。新しい米を使って伝統的な造りに挑戦する。そう考えると酒米の選択も越淡麗でいいと思います。精米歩合を考えると、学校蔵はリキュールの製造免許だから、最後に杉板を入れますよね。繊細で日本酒の本質をついたようなスペックにしても、最終的な製品としては映えないのではないかと思うんです。
藤田
越淡麗は磨いたらきれいに仕上がる酒。でも磨きすぎない、私は60%精米がいいと思います。
松崎
いや、そうじゃなくて、旧きを訪ねて新しきを知るだから。昔の造りを再現したような酒がいいんじゃないかと考えているんですけど。
藤田
えーー、松崎さん、それってもしかして低精白......。
松崎
はい。江戸時代の中期の頃の酒造りで、90%精米くらいはどうでしょう。越淡麗でこれが挑戦できたらおもしろいんじゃないかなあ。
越淡麗
酒米は越淡麗に決まった。山田錦に匹敵する酒造好適米として、15年かけて新潟県が開発。母に山田錦、父は五百万石。ふたつを掛け合わせて2004年に誕生。柔らかくてふくらみがあり、淡麗できれいな酒質が特徴。
藤田
杜氏さん達が教えてくださるといっても、学校蔵は素人が集まって造るんです。江戸中期の酒造りだとハードルが高い気がするのは、自信のない私だけかしら......。
松崎
じゃあ、お互い張り合って2種類つくるのはどうですか。「松」と「藤」なんてどう?いいネーミングだなあ。
藤田
松崎さん、前のめり(笑)。私たちのタンクは1本ですよ。造るのは1種類ですからね。低精白の造りは難しいと、いろいろなお蔵さんから話を聞いています。素人が造ると70%精米でも、もたもたした重い酒になる懸念もありますから。松崎さん、日本酒って、あぁおいしいって、みんなに思ってもらえるようなお酒をつくりましょうよ!
松崎
そうですね、ちょっと歴史浪漫に気持ちが先走ってしまいました(笑)。では、精米歩合は60%にしましょう。
藤田
精米歩合60%にしても、簡単ではないでしょうね。ああ、今からドキドキします。

酵母を考える。

佐渡国小木民族博物館
酒造りの休憩中に、チームd酒で訪ねたのは宿根木地区にある「佐渡国小木民族博物館」。展示パネルに「能登の湊を回って、佐渡に物資を運び、米・塩・紙・酒などの積荷証が残っている」という記述を見つけて、松崎さん、感激ひとしお!

次に決めるのは、酵母。どのような酒を造るかは、香りや味わいに大きな役割を果たす酵母を選ぶと決まります。学校蔵では、新潟生まれのG9号の酵母を使っているけれど、さて、d酒は?

藤田
松崎さんと私の世代にとって、9号系は青春の酵母。華がありながらも上品で控えめな香りは吟醸酒の原点です。越淡麗で9号、無濾過の火入れ。ああ、なんだかわくわくしてきますね。味のイメージが湧いてきました!
松崎
いや、今回せっかく酒質設計できるのだから、いつもの学校蔵と違う酵母で冒険しましょう。藤田さん、歴史の浪漫は酵母に託しませんか。
藤田
あ、やっぱり松崎さんですね。真野鶴の平島さんからの受け売りですが、佐渡は新潟から入った越後文化圏ではなく、江戸文化と北前船の文化圏なんです。そうなると......。
松崎
明治以降、佐渡には新潟から越後杜氏が入っています。でもその前は、北前船で運ばれた能登の酒文化が佐渡へ広がったのかもしれない。あくまで仮説ですが、そんなふうに歴史の浪漫に思いを馳せると、日本酒は楽しくなります。
藤田
そうしたら、金沢の14号酵母ですね。わーい、爽やかで上品、そこはかとない落ち着いた味わいの14号、好きなんです。9号とはまた別の魅力がありますね。
松崎
そうですね。華やかだけど派手さのない、品のある14号酵母を使うと、どんな味わいになるのか、私も楽しみです。
能登から佐渡へ?酵母は金沢生まれの14号。きょうかい14号と樋口もやし。14号は金沢酵母の中から選抜された酵母。酸が少なく淡麗で、フルーティーで華やかだが、派手になりすぎず穏やかな特徴を持つ。

おいしさは目指さない?

酒米は越淡麗。精米歩合60%。酵母はきょうかい14号。酒質設計のすべてが決まった。この日から約300日後に、仕込みがはじまった。

松崎
おいしさは目指さなくていいと思うんです。酒造りは素人、私たちが流行りのお酒を造ってもしょうがない。そこを追求するのではなく、日本酒のおいしさってなんだろうって問う。これが私たちの使命じゃないでしょうか。
藤田
私は、酒造りって感謝と祈りだと思うんです。お米ができてありがとう。またできますように。そしてできたお酒に感謝する。そういう日本酒の根源的なことを、考えてみたいと思います。
松崎
とはいえ、みなさんに喜んでもらえるお酒を造らないとですね。イメージは辛すぎない食中酒。
藤田
ある程度は甘味もあったほうがいいですね。ひとくち飲んでさびしくなったりしない、気持ちが上がって元気になるようなお酒じゃないと。ひとくちで嬉しくなっちゃうような、そんなお酒ができるといいですねえ。
稲刈り
酒米が越淡麗に決まってすぐに、dancyuのweb編集長である江部拓弥は佐渡へ向かい、ちょっとだけ稲刈りのお手伝い。

対談者

松崎晴雄

松崎 晴雄

日本酒輸出協会会長。歴史をひもとき、日本酒の魅力を世界へ伝える日本酒界のマエストロ。各県の清酒鑑評会審査委員や、長野県や佐賀県の原産地呼称管理委員会官能審査員を務めるほか、「全米日本酒歓評会」「International Sake Challenge」などの国際的なコンペティションの審査員を担当。「日本酒ガイドブック」(柴田書店)など著書も多数。

藤田千恵子

藤田 千恵子

文筆家。日本酒の造り手に魅せられ、全国各地の酒蔵を訪ねること30年以上。時代と共に変わりゆく日本酒文化、そして酒蔵に生きる人々の伝え手として、執筆活動を続ける。著書に能登杜氏・天保正一氏を取材した「杜氏という仕事」(新潮社)ほか、「雪の茅舎」の高橋藤一杜氏の酒造りを追ったノンフィクション「美酒の設計」(マガジンハウス)がある 。

d酒
d酒
酒米 佐渡産越淡麗100%
越淡麗は山田錦と五百万石を掛け合わせた、新潟生まれの酒造好適米。ふくらみがあり、穏やかな味わいのお酒を目指しました。

精米歩合 60%
玄米を40%削った吟醸造り。味わいをもちつつ、綺麗な飲み心地となるように酒質設計しました。

酵母 14号酵母(金沢酵母)
江戸の頃、北前船によって能登の酒造りが佐渡にもたらされたのではないか。そんな歴史ロマンに思いを巡らして選んだ金沢酵母は、果実のような爽やかで落ち着いた香りが特徴です。

原材料名 清酒(純米酒) 佐渡天然杉
清酒(純米酒)に新潟大学演習林の佐渡渡天然杉を浸漬して、 無濾過のまま瓶詰めしたお酒です (日本酒愛もたっぷり詰まっています)。

品目 リキュール
学校蔵はリキュール免許でお酒を醸しています。

内容量 720ml
一合徳利4本分です。

製造年月 2018年9月
8月1日から7日かけて仕込んだお酒を、9月末に瓶詰めしました。

製造者 尾畑酒造株式会社
新潟県佐渡市真野新町449「真野鶴」を醸す、1892年創業の酒蔵です。現在の蔵元は五代目。尾畑酒造の尽力があって、d酒は完成しました。

製造元 尾畑酒造株式会社 学校蔵
新潟県佐渡市西三川1337-1 廃校になった西三川小学校を、尾畑酒造が改装して仕込み蔵として再生。d酒は木造の小さな小学校で造られました。
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文:神吉佳奈子 写真:当山礼子

神吉佳奈子さん.jpg

神吉 佳奈子(編集者)

1969年、酒どころ広島で生まれる。出版社を渡り歩き、家庭菜園雑誌や食雑誌、料理本の編集に携わる。2018年5月まで、100人の高校生と名人をつなぐ「聞き書き甲子園」の事務局に所属。食と農の手仕事を伝えるべく、フィールドワークを続けている。