dancyu本誌から
群馬発、まじめな瓶詰と夫婦のお話<後編>

群馬発、まじめな瓶詰と夫婦のお話<後編>

12月号「おいしい取り寄せ」特集のトップバッターを飾った、ピュアな味わいの瓶詰。食いしん坊たちを感動させるその美味しさは、どうつくられるのか?かぼちゃキャラメル瓶詰づくりの1日と、つくり手夫婦の物語を、誌面に収まりきらなかった分まで余さずご紹介します。

瓶詰工房へ!まずは腹ごしらえ。

竹内悠介さん、舞さん夫妻が現在、借りているのは、群馬県沼田市内の二階建ての一軒家。築80〜90年にはなるという年季の入った家には、もともと建具職人が住んでいたそうで、工房として使われていたちょっと広めのスペースがある。板張りの床には飛び散った塗料の跡がたくさん残っていて、なんだかジャクソン・ポロックの絵画みたいだ。

店内
古い一軒家の工房には、かつて「trattoria 29」の店内を彩っていた絵や小物もいろいろと飾られていて、空間はまったく違うのに、どこか懐かしさを感じる。

引っ越してきたときには、まだ瓶詰をつくることまで考えてはいなかったそうだが、このスペースがその後、瓶詰工房として大いに役立つこととなった。

「仕込みの前に、まずは腹ごしらえをしましょう。悠介さんがパスタをつくりますから」。うれしいなぁ、「trattoria 29」の最終営業日に食べて以来のパスタ!

料理
路地ものの舞茸と雪割茸の旨味がじんわりとしみた優しい味に、ちょっと泣きそうになる。

「これも味見してみてください。今週の瓶詰で販売するんです」と出してくれたのは、旬のオータムポエムと金時草、ツルナ、マコモダケのアーリオオーリオ。秋の菜花のシャキッ、ツルッとした食感と、マコモダケのホクホクのコントラストが楽しくて、ワインが進みそう。

料理

さぁいよいよ仕込みを始めます。

おいしいごはんをいただいて、すっかり満足してしまったが、ここからが本番。今日、仕込むのは、昨秋販売して大好評だった“かぼちゃキャラメル”だ。ほっこりとしたかぼちゃとビターなキャラメルが混ざり合ったペーストは、大人の甘苦味。パンにのせても、おやつにそのままパクパク食べてもいける。想像しただけで、昨年食べたときのおいしさがじわじわと舌に蘇ってきた。

さっそく作業開始。まずは「農園花笑み」で仕入れたかぼちゃ2種類と、悠介さんのお母さんが育てた実家のかぼちゃを、オーブンでじっくりとローストする。「使う品種は決めていません。そのつど変わるのも面白いかなと思って」。

かぼちゃ

粗熱がとれたら2人で皮と種を取り除く。種の周りがおいしいからと、一つひとつ目を凝らして、種だけをこそぐように取り除いていく地道な作業。これが終わると、次は手動のマッシャーで少しずつペースト状にする。

調理工程
調理工程
調理工程
調理工程
調理工程

ここで悠介さんが用意したのは体重計だ。もちろんヒト用の。かぼちゃのペーストを入れたボウルを抱えて乗り、自分だけで乗り、かぼちゃの重さを計る。

ボウルを持って体重計に乗る男性

2人が作業しているこの台も、なんだか見覚えがあるような……と思ったら、卓球台なのだった。前の住人が残していったものだそうだが、あるものをうまく活用しながらの手作業に感心しきり。

寸胴鍋にかぼちゃのペーストとシナモンパウダーを入れてスタンバイしたら、別鍋に計量したグラニュー糖をザザザッと入れ、少量の水で湿らせて火にかける。また別の鍋では生クリームを沸かしておく。グラニュー糖がだんだんと色づいてきたが、まだまだ触らず、真っ黒のサラサラ状態まで焦がしたら、生クリームと合わせてキャラメルに。台所に漂う甘くビターな香りを逃さじと、深呼吸を繰り返してしまった。

調理工程
調理工程

かぼちゃペーストとキャラメル、さらにグラニュー糖を混ぜ合わせてしっかりと加熱したら、アクセントに地元産のりんごを刻んだものを加えてさらに加熱。シナモンパウダーと塩で味を調える。

調理工程
調理工程
調理工程

わあ、できたね!と喜んだのもつかの間、ここからノンストップで瓶詰の作業が始まった。

まだ熱いかぼちゃキャラメルを絞り袋に詰めて、煮沸した瓶に1本ずつ、手作業でちゅうーっと絞っていく。絞りきるとまた詰めて、の繰り返し。これ、せめて手動の充填器みたいなものはないの?「あはは、さすがにありますよ!でも、かぼちゃキャラメルみたいに濃度が強いものはそれだと垂れてこなくて詰められないから、手で絞り出すしかないんです」と悠介さんが笑う。

並んだ空き瓶

瓶の口までパンパンに詰めたら、今度は1本ずつ台にトントンと叩きつけて空気抜き。蓋を閉め、湯を張った鍋で脱気をすれば(これも一度に15本までしかできない!)、ようやく瓶詰の完成となる。

瓶詰工程
瓶詰工程
瓶詰工程
瓶詰工程
ようやく完成!一から十まで、すべてが2人の手作業。一度にたくさん仕込めないのも納得だ。

2人が瓶に詰めた気持ちと、これから。

2週間に一度、毎回4〜5種類の瓶詰を、食材探しからこうしてひたすら2人だけの手作業で行うのは大変なことだ。完成後は、食材や作業工程の写真を添えてSNSに次回の商品説明と販売告知をし、サイトの切り替えをして発売。商品の梱包に発送。最初は友人や知人、西荻窪時代のお客さんからの注文が中心だったが、評判が評判を呼び、今では北海道から沖縄まで、全国から注文が入る。

悠介さんが働いたイタリアのレストランでも瓶詰をつくっていたし、自分でもやってみたいと思ってはいた。しかし、それはあくまでレストランが主軸にあってのこと。店を持たないいまの期間だけ“瓶詰屋さん”になるのは中途半端ではないかと、初めは消極的だったのだが、舞さんや友人のプッシュもあり、始めることを決意したという。

店主夫妻

「この10年、東北の震災とか、いまのコロナとか、いろいろなことが起こって、店が店をやるだけではやっていけない方向になってきているのかな、って。もうひとつの営業形態を持っておくことも必要なのだと思うようになりました。結果、店のオープン前に瓶詰づくりで1年通して食材を見ることができたのはすごくよかった。生産者さんとのネットワークもできたし。西荻窪時代は日々の忙しさに追われて、それができていなかったから」と悠介さん。

「私、瓶詰づくりがすっごく好き。楽しい!これずっとやりたい!と言ったら叱られたんですよ。僕は対面で料理をつくりたいんだ!って」。やれやれという表情で、しかし、とてもうれしそうに舞さんが言う。

西荻窪時代から10年、彼らと接してきて感じるのは、ちょっぴり頑固で職人気質な悠介さんを、姉さん女房の舞さんが絶妙な塩梅でサポートするバランスのよさ。そして2人とも超のつく真面目で、とてつもなく繊細で、優しい。
晩秋から春までは雪が積もるため、店舗の工事はお休み。2人の新たな夢のお披露目までには、いましばらく時間がかかりそうだ。「29 in bottiglia」の瓶詰ファンのみなさんもご安心を。レストランの図面には、瓶詰用のキッチンも、ちゃんと描かれてますよ。

瓶詰の購入について
瓶詰は1本1,100円〜。発売日には毎回4〜5種類がナインナップ。旬の野菜や果物を使うため、内容は毎回変わる。最新の発売日と商品内容については上記サイトで確認できる。すぐに売り切れになることもあるので注意!
dancyu2021年12月号
dancyu2021年12月号
特集:おいしい取り寄せ

A4変型判(160頁)
2021年11月06日発売/ 900円(税込)

文:鹿野真砂美 撮影:山田 薫