石田ゆうすけさんの青春18きっぷでミラクルミステリーツアー。
関ヶ原の歩き方。

関ヶ原の歩き方。

日本の歴史を語る上で、関ヶ原は重要な地である。しかし、その実態はよく知られてない。いや、もしかすると3人で140歳のおっさんだけが知らないだけなのだろうか。知らないのなら知りたい。時間はないけれど、好奇心はある。またしても途中下車。いざ、関ヶ原!

昔の侍。

編集担当の“痛風エベ”がスマホをいじくりながら言った。
「予備時間はあと30分だけですね」
青春18きっぷの効力が切れる夜中0時まで、めいっぱい普通列車に乗って堺にゴール。そのプランから逆算すると、あと30分、時間の余裕があるというわけだ。堺では深夜0時に開店する謎の天ぷら屋を調査するというミッションがある。何かトラブルがあって辿り着けなかったら目も当てられない。ゆとりをもって30分早めに堺に着いておこう――とは考えない。青春の旅だから。「計画的」とか「用心」なんてもってのほか。「破れかぶれ」「いてまえ」「けせらせら」。やっぱ青春はこうでなくっちゃ。
ということで関ケ原で降りることにした。誰もが知る地名だけれど、どんなところか3人誰も知らなかったから。
21時17分到着。

関ヶ原駅
何度通ったかわからないけれど、降りるのは初めてです。

駅構内に〈世界三大古戦場〉と書かれたパネルがあった。
「世界三大……誰が決めたんだろう?」
「関ケ原の戦いを知っている外国人ってどれだけいるんでしょうね」

展示案内
2016年に岐阜県と関ケ原町が海外の二都市に呼び掛けてサミットを開催し、共同宣言を行ったそうです。
駅舎
全国区の名前に比してわりと普通な駅舎。嫌いじゃないデザインだけれど。

駅を出ると、ちょっと意外な光景が広がっていた。
「真っ暗ですね」
「もっと観光地かと思ってました」
古い町並みを求めて暗い町に入っていく。するとさすが“世界三大”、ここが古戦場だったことも、関ケ原だということも、町を歩けばすぐにわかるのだ。

アピール看板
「ここは」と入れるところに地元自治体の並々ならぬ思いが込められているようです。
アピール看板
ひとつひとつの看板がとにかくデカい。

「……説明的すぎません?」
「いや、わかりやすいから正解なんでしょう」
各武将の家紋入りの幟が道沿いに立っている。

のぼり
関ケ原にいる気分がますます高まって、合戦の喧騒が聞こえてきそうです。

「この幟、それぞれの陣地跡に立っているんでしょうね」
「そりゃ関ケ原ですからね」
「あれ?藤堂高虎って東軍ですよね。なんで西軍の小西行長と同じところに?」
「家康に寝返ったヤツいたじゃないですか」
「それは小早川秀秋では?」
「東西入り乱れた合戦シーンを表しているんですよ、きっと」

のぼり
幟が立っているここは、案内板で確認すると、合戦地でもなければ、誰の陣地でもありませんでした。

兵、走る。

古そうな家はぽつぽつあるものの、町に風情があるかというとそうでもなく、夜の関ケ原はただただ暗いだけだった。
こういう“演出”はちょこちょこあるのだけれど。

自販機
自販機も合戦ムード満点。
アピール看板
とりあえず看板はデカいんです。

もっとも、日中は町も違った顔を見せているだろう。それに2020年7月には「関ケ原古戦場記念館」が満を持して完成する。近くには「関ケ原ウォーランド」という珍スポットファン垂涎のアミューズメントパーク(?)もある。町自体はとても楽しそうなところなのだ。
というポジティブな話題で、この旅最後の途中下車を締めくくろう。

石碑
鉄道唱歌には「草むす屍いまもなお」。沼底のような暗い町を歩いたあと読むと、感慨もひとしお。

関ケ原から米原行きに乗って約20分、さらに米原から快速で約1時間20分揺られると、町の明かりが視界にドッとあふれ、大阪に着いた。時計を見ると23時38分。東京から15時間あまりだ。そんなものか、と思った。もっともっと経っている気がする。いろいろあったもんなあ。濃い1日だった。旅はやはり“体感時間”を延ばすのだ。
南へ向かう列車が入ってきた。

電車に乗る石田ゆうすけさん
とうとう最後の列車に乗り込みます。東京から数えて9本目。

ゴールの堺市駅には0時9分に着いた。青春18きっぷのリミットは0時を過ぎて最初の駅までだから、ぎりぎりセーフだ。
と思っていたら、後で知ったのだが、都市圏は最終列車まで有効らしい。じゃあ関ケ原にもっといられたじゃないか!とは、なぜか思わなかったのだけれど……。

ポーズする石田ゆうすけさん
ゴーーール!思いのほか達成感がありました。でもミッションはまだ終わっていません。

――つづく。

文:石田ゆうすけ 写真:阪本勇

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。