愛とラーメンのバラード
イタリアンな「真鯛らぁめん まちかど」の鯛ラーメン。

イタリアンな「真鯛らぁめん まちかど」の鯛ラーメン。

「真鯛らぁめん まちかど」でスープをすすった瞬間、私の心は奪われた。街には数多の鯛ラーメンがあふれているけれど、そのどれとも違う。材料も、手法もイタリア仕込み。イタリアンをルーツに持つ異端の鯛ラーメンに、私は恋をした。

生の鯛、炒めた鯛、ローストした鯛……鯛の旨味の三重奏やぁ!

男性にたとえるならば、鯛ラーメンは私にとって“好みのタイプ”。

でも、「真鯛らぁめん まちかど」の鯛ラーメンは、“よくいる彼”じゃない。初めて「真鯛らぁめん まちかど」の鯛ラーメンを食べた時、直感でわかったんだ。「今まで出会ってきた、どの鯛ラーメンとも違う!」って。

どんなつくり方をしているんだろう?

スープの仕込み手順を聞いたけれど、いまいちピンとこなかった。だって、そんなラーメンスープの炊き方は、今まで聞いたことがなかったから。

「スープは、鍋肌に鯛の旨味を焦げつかせてつくるパンチの効いた鯛スープ。タレは、鯛スープをさらに濃縮させてつくったもの。醤油ダレも塩ダレも、うちでは使いません」
えっ、鯛のスープでつくるタレってどういうこと?

醤油ダレも塩ダレも使わない?

そんなことを聞かされたら、ますますキミのことが知りたくなってしまうじゃない。お願いです、どんな風につくっているのか、見せてください!

メインの材料は真鯛のアラとセロリやにんじん、じゃがいもなどの野菜類。鯛と動物系の食材を組み合わせて飲み応えやパンチを演出している店も多いけれど、「真鯛らぁめん まちかど」では動物の骨や肉類は一切使わない。
「魚だけでも豚骨ラーメンにも劣らない、ガッツリ食べ応えのあるものがつくれるからです」


荒木さんはスープを2日がかりで仕込む。
まずは真鯛のアラを、鋏で頭と顎の部分に切り分け、流水で丁寧に内臓や血合いを取り除く。下処理が中途半端なままスープを炊くと魚特有の嫌な生臭さが出てしまうので、この作業は特に念入りに行っている。

アラは顎と頭の2つに分け、流水で洗いながら、それぞれ丁寧に下処理を施す。
アラは顎と頭の2つにわけ、流水で洗いながら、それぞれ丁寧に下処理を施す。
臭みやクセの原因となる血合いや内臓はきれいに取り除く。この作業なくして、絶品の味には仕上がらない。
臭みなどの原因となる血合いや内臓はきれいに取り除く。この作業なくして、絶品の味には仕上がらない。
下処理が終わったら、●分ほど水に浸け、仕上げの血抜きをして仕込みの第1工程は終了。
下処理が終わったら、10分ほど水に浸け、仕上げの血抜きをして仕込みの第1工程は終了。
頭の一部は、オーブンに入れてロースト。香ばしさと凝縮した旨味が、スープに深いコクを与える。
頭の一部は、オーブンに入れてロースト。香ばしさと凝縮した旨味が、スープに深いコクを与える。

下処理をした鯛のアラを寸胴鍋に入れてじっくりコトコト……では終わらない。野菜類と一緒に生の状態から炊くアラは全体の半量ほど。頭の部分の半分はオーブンで香ばしくローストし、顎の部分の半分は鍋でしっかり炒めてから使用する。鯛のアラを、3通りの手法で仕込むことにより、スープの分厚さが増すのだそうだ。
まるで旨味のグラデーションみたいだなぁ。

おもしろいのは、鯛をわざと鍋の中で“焦がす”工程だ。だって、ラーメン店でスープを焦がすことは、御法度中の御法度。たとえば徒弟制度のラーメン店で、弟子がそんなことをしでかそうものなら、間違いなく師匠にどやさる。

「鯛のアラを煎って鍋底に焦げつかせることで、まったり濃厚な味わいのスープに仕上がるんです」と荒木さん。目からうろこだ。これは、一般的なラーメンのスープづくりにはない発想!
「鯛のアラを煎って鍋底に焦げつかせることで、まったり濃厚な味わいのスープに仕上がるんです」。目からうろこだ。一般的なラーメンのスープづくりにはない発想!

横から手元を覗かせてもらうと、鍋底にびっちり旨味の“おこげ”が貼りついていた。身や骨を崩しながら鯛のアラを煎って、鍋底に焦げつかせていくことで、スープにほどよい雑味が加わり、力強い旨味になるのだとか。そこに別鍋で炊いた、鯛と野菜のスープを少量加えて、今度はその“おこげ”をきれいにこそげ落とす。そして再び水分を飛ばし、旨味を鍋底に焦げつかせる作業を繰り返していく。

下処理をした真鯛のアラを入れ、水を張った寸胴鍋。野菜類も入れて、一緒に炊き上げる。
下処理をした真鯛のアラを入れ、水を張った寸胴鍋。野菜類も入れて、一緒に炊き上げる。

ちなみに、野菜類と一緒に炊く鯛スープには野菜類やローリエのほかに、生のパスタも入っている。とろみづけだけでなく、パスタから出る出汁をスープに重ねる目的もあると聞いてびっくり。ごはんをスープに入れる店はときおりあるけれど、パスタを入れる店と出会ったのは初めてだ。

最終的に、ローストした頭と鍋で煎った顎の部分も、鯛と野菜のスープに加え、合計5時間かけて魚の出汁“フュメ・ド・ポワソン”をとっていく。

塩はイタリアン時代から愛用しているシチリア産の海塩も寸胴鍋に入れ、鯛や野菜とともに炊き上げる。
塩はイタリアン時代から愛用しているシチリア産の海塩も寸胴鍋に入れ、鯛や野菜とともに炊き上げる。

なんと麺までイタリアン!もちもちとしたコシのある“リングイネ”を使用。

2日目は、できあがったスープを撹拌して濾す作業。その際にセミドライトマトを加えるところも、イタリアン出身の荒木さんらしい。
「セミドライトマトを加えることで、より複雑な旨味を演出できるんです」

ピューレ状にしたセミドライトマトに鯛スープを加え、シノワで漉したらできあがり。注文ごとに、このスープに真昆布の出汁、シチリア海塩を加え、手鍋で温めて提供する。
ピューレ状にしたセミドライトマトに鯛スープを加え、シノワで漉したらでき上がり。注文ごとに、このスープに真昆布の出汁、シチリア海塩を加え、手鍋で温めて提供する。

こうして「真鯛らぁめん まちかど」の鯛スープはようやく完成する。でき上がったばかりのスープをひと口飲ませてもらって驚いた。タレを合わせなくても、このままゴクゴク飲めてしまいそう。
「薄味ではありますが、スープを炊く時に塩も一緒に入れています」
ラーメンスープの場合、塩分はタレの方に加えるので、スープ自体に味をつけることはほとんどない。これも、イタリアンをルーツに持つラーメンならではのおもしろさ!

「タレは、このスープをさらに濃縮させてつくります」

旨味の層をつくる技がここにも光る。

実は、麺にも秘密が隠されている。「真鯛らぁめん まちかど」の麺にはかんすいが入っていないのだ。その分、小麦の風味がダイレクトに伝わってくる。形状はリングイネと同じ楕円形。イタリアのセモリナ粉を7割、中力粉を3割の割合で配合し、オリーブオイルを加えて製麺されたものだそう。これは中華麺ではなく、もはやパスタではないか!

「かんすいは使っていませんが、硬質小麦の粉を使っているのでコシがあるんです」

その分、つけめんとまぜそばは、水で〆ると麺が硬くなりすぎてしまうので、一度水で〆めた後、再び湯に一瞬浸けるそう。この一手間で、表面はやわらかく、中に一本芯が通ったアルデンテの食感に仕上がる。

「真鯛つけ麺」1,100円。もちもちとしたパスタと、鯛の風味がパワフルなつけ汁の相性が抜群。
「真鯛つけ麺」1,100円。もちもちとしたパスタと、鯛の風味がパワフルなつけ汁の相性が抜群。

「真鯛らぁめん まちかど」のスープづくりは、とにかく手順が多い。時間もかかるし、正直、とても面倒な作業ばかりだった。おそらく下処理を終えたアラをそのまま鍋に入れて煮込んでも、きっとスープは完成する。
でもそれだと、感動的な味には絶対にはならないんだろうな。これまで出会ったどんな鯛スープとも違う、鮮烈で忘れがたいあの味には。

――つづく。

店舗情報店舗情報

真鯛らぁめん まちかど
  • 【住所】東京都渋谷区恵比寿西1‐3‐9 田中ビル2階
  • 【電話番号】090‐4453‐0253
  • 【営業時間】11:30~16:30(L.O.)
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】JR・東京メトロ「恵比寿駅」より3分

文:松井さおり 写真:徳山喜行

松井 さおり

松井 さおり (ライター・編集者)

大学時代にラーメンの食べ歩きにハマる。新卒で勤めた出版社でラーメン担当を任されて以来、ラーメン店取材がライフワークに。仕事とプライベートを合わせると、年間300杯近くを実食。電話帳の1/3はラーメン店主、体の半分くらいは多分ラーメンでできている。