酒場の入口、酒場の出口。
伊勢の〆は「美鈴」で餃子とビール、土産におにぎり。

伊勢の〆は「美鈴」で餃子とビール、土産におにぎり。

陽が高いうちから、伊勢の酒場の入口「一月家」で飲んで食べて、大満足。さて、次は出口を目指しますよ。歩くこと数分。「美鈴」の暖簾をくぐります。小さな店内は、清潔感と活気にあふれていて、ほろ酔い気分はさらにごきげん。長居は無用。土産を手にして、外へと出れば、すっかり暮れた伊勢の空。

暖簾
開店前、待ちきれない客たちが、店の前のベンチに座って談笑する光景もしばしば。ぱりっとした暖簾が掲げられたら、オープンです。

子供時代の思い出、町の自慢。ずっと、そう。

入口が見つかったら、次に欲しいのは出口として必ず寄りたい店である。伊勢には出口に最適な素晴らしい店もある。少なくともぼくが知っている伊勢周辺出身の友人たちは、子供時代の思い出とともに、この店「美鈴」のことを自慢する。

女将さん
女将さんの奥村美佐さんは「美鈴」の三代目。初代が奥村さんの祖母、先代が父。
餃子づくり
カウンターでぐるりと囲まれた中央で、餃子づくりに勤しむ姿を見ているだけで、酒がすすみます。

居酒屋でもあるし、軽い食事処でもあるが、何よりも家で食べるための餃子をテイクアウトしていく店なのだ。だからよく親に連れていかれたとか、酔った父親の手みやげの定番だったとか、その手の話を聞かされる。コの字のカウンターの中で、家族と思しき数人が見惚れてしまう連携で動きまわっている。それだけでも充分にいい肴だ。

から揚げ
骨付きのから揚げ。地元・三重の地鶏をぱりっと揚げた一品。これまた酒がすすみます。780円。ハーフ430円もあります。
ジュワーッと焼きます
注文が入ってから、皮をのばし、餡を包み、ジュワーッと焼きます。創業からずっと変わらぬ味と流儀。1人前8個で480円。

メニューは焼き餃子と水餃子、おでん、から揚げ、カニクリームコロッケ、そしておにぎり。ひっきりなしにテイクアウトの客が戸を開けて、注文をしていく。その後はビールを飲みながら出来上がりを待つ人もいれば、外に停めた車の中で待つ人もいる。ぼくはあまりビールを飲まないけれど、さすがにこのメニューならば瓶ビールを頼む。ちびちび飲みながらおでんをつつき、から揚げのハーフと焼き餃子を待つ。水餃子をスープ代わりに頼むのもいいだろう。

おにぎり
おかか、鮭、梅。3個で480円。持ち帰って翌日の朝ごはんにしてもよし、遠方に帰るなら帰りの新幹線でも食べるのもよし。もちろん、店内の〆にもよし。
おにぎりをにぎる
おにぎりをにぎるのも、餃子と同じく職人技。あつあつのごはんをふわっとにぎります。
餃子を焼く
鉄のフライパンを火力に合わせて右へ右へと移動しながら、次々と餃子を焼いて、仕上げていく職人技。

老若男女が集う、伊勢の夜のオアシス。

翌日は伊勢神宮に早朝参拝の予定だから、適当に切り上げたい。持ち帰り客の出入りはひっきりなしだし、長居する客も少ない店だから、会計をしてもらうタイミングを見失うことがない。そうだ、おにぎりのテイクアウトを忘れてはならない。おかかと梅干しと鮭。小さめのおにぎりが3つとタクアンがセットになっている。翌日の朝ごはんを買って帰れるという意味でも、素晴らしい出口なのである。

包装紙
初めて見てもきゅんとなる包装紙。おなかに余裕があれば、この4品は食べたいところ。
カニクリームコロッケ
カニクリームコロッケは、二代目が修業先の洋食店から戻ってきてからの定番メニュー。680円。

そういえば「美鈴」でカニクリームコロッケだけ、まだ食べたことがない。それを思い出すのは、持ち帰ったおにぎりの包を開く時。包装紙には大きな鈴の絵と店名とメニュー名とが印刷されている。しかし「美鈴」でカニコロを食べるためには、「一月家」のカレーを諦めなければならない。果たしてそんなことがぼくにできるだろうか?

集合写真
餃子、から揚げ、おにぎり、かにクリームコロッケ、おでんが、カウンターに囲まれた中央から流れるように供される様子は、舞踏会を見ているよう。
外観
創業は1963年。ずっとこの場所で営業している。当初はおでんが看板メニューだった。

店舗情報店舗情報

ぎょうざの美鈴
  • 【住所】三重県伊勢市1-2-17
  • 【電話番号】0596-28-8602
  • 【営業時間】17:00~24:00(L.O.)
  • 【定休日】月曜(祝日の場合は翌日)
  • 【アクセス】JR・近鉄「伊勢市駅」より15分

文:岡本 仁 写真:エレファント・タカ

岡本 仁

岡本 仁 (編集者)

『ブルータス』『クウネル』『リラックス』などで雑誌編集に携わった後に、ランドスケーププロダクツへ。自分がいつも何をしているのかを人に説明する言葉が見当たらないのが悩み。