まる、さんかく、しかく
中根ゆたかさんの玄米おにぎり|おにぎりをたずねて三千里①

中根ゆたかさんの玄米おにぎり|おにぎりをたずねて三千里①

「おにぎりの本当のおいしさってなんだろう」。その答えを求めて写真家・阪本勇は旅に出る。シリーズ第1回目は、京都府綾部市に家族4人で暮らす、イラストレーターの中根ゆたかさんに会いに行った。

土鍋を使って自己流で炊いた玄米を、鍋肌のおこげごとにぎる。

中根ゆたかさんは独特で自由な人だ。

  

10年くらい前、はじめて会ったときは腰くらいまであった髪の毛が、今はすっきり短くなっていて、その代わりとでもいうように、まるで仙人のように髭が伸びている。詳しくは忘れたが、なんちゃら健康法というのがあるらしく、健康のために冬でも草履で歩く。

左から、なおこさん、タキ、フキ、中根さん

住んでいる場所もこの10年間転々としていて、東京の駒沢、半蔵門、神奈川の箱根、京都の福知山、そして今は京都の綾部市に奥さんのなおこさん、長女のフキ、長男のタキと家族4人で暮らしている。「ちょっと行ってくる」と言って、思い立ったかのようにフランスに行って家族で半年間生活したり、アメリカのポートランドでワンシーズンを過ごしたりもする。

  

最近はマツダのロデオという大きいキャンピングカーを買った。ポータブル電源も買って、パソコンを積んで、これでどこに行っても仕事ができるようにしたいと言う。イラストレーターという、場所を選ばない職業だからできるのだろうけど、その自由さとフットワークの軽さに僕はずっと憧れている。

飯ごう炊さんのときみたいに、手首で水の量をはかってた

中根さんは土鍋でごはんを炊く。僕も土鍋で炊いているけれど、僕のやり方とは少し違った。

  

なんと言えばいいのかわからないけど、とにかくごはんの炊き方まで自由だった。水加減も計量カップは使わずに、手のひらを水に浸してはかっていた。飯ごう炊さんのときの炊き方みたいやなぁと見ていて思った。土鍋の空気穴に菜箸をブッ刺してから火にかけた。タイマーもかけずに、時計も見ていなかった。

赤子泣いても気にしない中根さん

炊き上がりを待つ間、中根さんが近所の山で摘んできて乾燥させた野草でつくったお茶を飲んで待った。「そろそろやろか」と立ち上がり、土鍋に近寄って“ぱかり!”と蓋を取ったので驚いてしまった。

  

「はじめチョロチョロ、中パッパ。赤子泣いても蓋取るな」

土鍋ごはんの炊き方として、僕はそう習っていた。

  

「赤子泣いても蓋取るなって言いますやん!途中で開けていいんですか?」と聞くと、「いいんちゃう?」と、ひとつも気にする様子もなく、木のスプーンで端っこのお米をすくって味見をし、少し水を足してから、また蓋をして火にかけた。

山で摘んできた野草
あっという間におひつは空になった

僕の心配もなんのその、炊き上がったごはんは見事な炊き上がり具合だった。しばらく蒸らした後、おひつにごはんを移した。普段、余ったごはんはおひつでそのまま保存するらしく、暑い日なんかはおひつごと冷蔵庫に入れておくらしい。

  

手の平にジャリッと塩を塗り、じゃんじゃかじゃんじゃかにぎっていく。おにぎりを10個つくって、おひつは空っぽになった。にぎり終わった頃に、なおこさんが帰ってきたので、3人で子供たちを保育園に迎えに行った。

まる、さんかく、しかく
まるのような、さんかくのようなかたち

なおこさんに聞けば、東京に住んでいるとき、デートにはいつも中根さんがおにぎりをふたつにぎってきたのだという。体は小さいのに、にぎってきてくれるおにぎりが大きいことにびっくりしたらしい。ひとつでお腹いっぱいになる大きさだったそうだ。

  

東京の代官山に、そこから富士山が見える西郷山公園という場所があって、ベンチに座って富士山を見ながらふたりでおにぎりを食べた。節約のために家からお茶を入れた魔法瓶も持ち歩いた。これは今も変わらず、中根さんに会うとだいたい魔法瓶を持っていて、野草茶をわけてくれる。

ごはんが残ったときはおひつのまま冷蔵庫に入れる

保育園のおやつの時間におにぎりが出たらしく、子供たちは家に帰ってもおにぎりを食べなかった。フキは僕がお土産で持っていった八つ橋をうれしそうに食べていた。弟のタキは保育園で遊んでいるときに足を怪我したらしく、この日は終始不機嫌だった。

  

中根さん、なおこさん、僕の3人でおにぎりを食べ、残ったおにぎりは東京に帰る僕に、お土産で持たせてくれた。おこげの特別なおにぎりも僕がもらった。

タキはこの日はじめて笑顔を見せてくれた
この炊き方をはじめて知った
この炊き方をはじめて知った
知り合いの木工作家につくってもらったしゃもじ
知り合いの木工作家につくってもらったしゃもじ
愛用の水筒にもイラストが描かれている
愛用の魔法瓶
野草茶
野草茶
炊き上がるまで野草茶を飲んでのんびりと待った
炊き上がるまで野草茶を飲んでのんびりと待った
中根さんの作品
中根さんの作品
フキが描いた絵
フキが描いた絵
ご機嫌なフキ
ご機嫌なフキ
ご機嫌ナナメのタキ
ご機嫌ナナメのタキ
中根家
中根家

文・写真:阪本勇

阪本 勇

阪本 勇 (写真家)

1979年、大阪府生まれ。大阪府立箕面高等学校卒業後、インドにひとり旅。日本大学芸術学部写真学科中退。写真家の本多元に師事後、独立。2008年「塩竈写真フェスティバル フォトグラィカ賞」受賞。高校の先輩である矢井田瞳の撮影のアシスタントをした際には「箕面高校」とあだ名をつけてもらったことも。人物撮影、ドキュメンタリー撮影を中心に、写真・映像の分野で大活躍(する予定!)。